当真のクラスメイト


//某動画サイトにてゲーム実況をしている主人公(チビ)









お昼御飯を食べるために屋上の給水塔への梯子をあがる。
本当はあがっちゃいけないらしいんだけど、3年間ずっと登ってるのでもう習慣みたいなもんだ。
そしてその梯子をあがる時、屋上で昼食をしているらしい三人組の手元のスマホから衝撃的な声が聞えた。

『こんばんわんわんお。今日もやっていきましょー』

俺の声じゃん。
身バレの危機なんですが。




俺は2年の終わり頃から動画投稿サイトでゲームの実況プレイ動画をあげていたりする。
バイトもしていない俺の完全なる暇つぶしだ。
元々ゲームは好きだし、後で自分で見返そうと思って初めて、そのまま今の実況プレイに落ち着いた。
ネットでの交友は最低限に行い、顔だしや生放送とかも全くしていない。だって炎上したら怖いし。
つまりひっそり生きたい俺にとって身バレはくっそまずい展開だ。

梯子を登り終えて、給水塔の足元の日陰で寝転んで今日の昼前の授業をさぼっていたリーゼントに声をかける。

「とーま、身バレの危機なんだけど」
「あ?」

購買で買ってきた当真用のパンや飲み物が入ったビニール袋を当真の腹に落とす。ぐっと当真が変な声を出したが無視して隣に腰を下ろした。
手にしていたいちごミルクの紙パックにストローを刺す。
当真は上体を起こして袋の中を漁りながら、下をのぞいた。

「出水?佐鳥と米屋も一緒だな」

当真はペットボトルの封を開け、中の水を呷った。
名前に心当たりはないが、当真が知っているとなるとボーダーの人間だろう。
まさかこの学校に俺の実況動画を見てる人がいると思わなかったので吃驚した。ていうか何で学校で見てるのか謎だ。家でこっそり見ろや。

「しとど、やっぱり人気なんだな」
「人気なわけないじゃん何言ってんだこいつ」

当真は俺が実況動画を投稿している事を知っている。
うちに遊びに来た時にばれたから。

ストローを噛んで、うーと唸る。
身バレすると決まったわけじゃないけど、近くに自分の動画を見てる人がいると思うと居心地が悪い。
俺が引退するかどうかで悩んでいると、当真が俺の頭頂部を指で押してきた。鍛えてるのでかなり力が強し、そもそも俺は当真より身長が低いので的確に真っ直ぐ突き刺さって本気で痛い。

「いたたたた!!!」
「でけー声だすと三人に声でばれんぞ」
「とーまのせいじゃん!」

何で今押したのさ。
俺が当真の手を振り払って頭を押さえる。禿げる、今ので絶対毛根死んだ。涙目で睨むが当真はにやにやするだけだ。

「あ、やっぱり。当真さん。ちっす」
「よっ」

ぴしっと俺の動きが止まる。
ロボットの様な動きで視線を動かせば梯子を登って三人が上がってきた。
最悪な展開に顔をひきつらせる。
どうやら長居するつもりらしく、三人は俺たちの傍に腰を下ろした。
当真は冷や汗が止まらない俺を見て楽しんでいるのか、さっきの話をふった。

「なんか楽しそうなもん見てたな」
「ゲームの実況動画っす。佐鳥に教えてもらったんですけど腹捩れる程面白くて」
「へぇ…、佐鳥そういうの見んだな」
「クラスで流行ってて教えてもらったんですよー」

はやく終わってほしいなこの話題。今日の晩御飯何食べよう。自炊できないから兄が作ったものを食べるだけですけどね。
現実逃避していると、当真に肩をぐっと抱かれる。

「クラスで流行ってんだってよ、しとどちゃん」
「…………………え?」

たっぷり時間をかけ聞き返す。いま何て仰ったんですかね。
突然耳の遠くなった俺が耳に手を当てて聞き返す態度を取ると、当真がくくっと笑った。
他人事だからって酷いやつだな。
この話はもう終わってほしいのに、俺たちのやり取りに気が付かないカチューシャの子が続ける。

「ちゅっぱって名前で投稿されてるんですけど、ゲームは上手いんだけど、なんか…馬鹿?」

公開処刑だよ。もう止めたげて、俺のライフはゼロよ。
年下に馬鹿呼ばわりされているのはもはやスルーだ。
そんなことよりこの会話が続くのであれば俺はもうここに居たくない。

「トーマクン、オレ、キョウシツ、カエル」
「ぶっは!お前!誰だよ…!」

声でばれる可能性が無きにしも非ずだったため、ちょっと高めの声でカタコトで話すと、当真のツボにハマったのか噴き出して笑いだした。
俺らのやり取りの意味がわらかない三人が首を傾げているが知るか。俺は関わりたくないんじゃい。
いちごミルクと自分用のパンを持って、梯子へと逃げる。もう何も聞かなかった事にして教室で食べよう。




ちなみにその後結局、身バレした。




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