二宮と両片想い











目の前をさっと駆け抜けて立ち去ろうとする影をみつけて、二宮は制止の声をかけた。

「ちょっと待てしとど」

相手はぎくりと動きをとめて、そしてロボットの様な仕草でこちらを振り返る。
一応年上である二宮を無視できないと言う理性は働いているようだが、そのあまりにも硬い動きを見て、二宮は確認した。

「お前、最近俺を避けているだろう」
「え、あ、そ、そんなことは……」
「理由を言え」

腕を組んで鋭く追及する様な眼差しをしとどに向けると、しとどは困ったように頬をかいた。
三つ年下のしとどは、射手の後輩だった。しとどは、勘がよく、センスもあり、二宮も一目おいている。そして可愛がっている、つもりだった。
けれどここ最近、しとどは二宮を避けているように思えた。
最初は、本部内ですれ違う頻度が減ったように感じ、同じ射手のため訓練室ですれ違う事が多かったのに、それがなくなった。
そして、二宮の誘いをやんわり断ることが多くなった。
課題が忙しくて、その日は既に用事が、すみません寝ていて気が付きませんでした。それが何度が続いて、今日の態度。
偶然にしても重なり過ぎており、二宮は避けられていると言う結論に達した。
しかし心当たりは一切ない。
最後に会話した時も、普通だったはずだ。
何故避けられているかも分からないのに、避けられているという事実は少し腹が立っていた。そのため、仁王立ちになってつい声が低くなってしまうのも致し方ない。
二宮がじっと見下ろせば、しとどは勘忍したように重い口を開いた。

「……二宮さんが、その……氷見さんの事が好きだっていうのを聞いて」
「…は?」

一瞬意味が理解できずに間が空いてしまった。
何を言っているんだこいつはと二宮が怒りを忘れて呆然とするのを余所に、しとどは箍が外れたように喋りだす。

「確かに同じチームメイトですし、頭がよくて、清楚な氷見さんは二宮さんの好みのタイプかと…」
「ちょっと待て勘違いを」
「え!?嫌いなんですか!?」
「……嫌いではないが、そういう意味では」
「やっぱりお好きなんですね……大丈夫です、俺、応援できます」

そんな弱弱しい声で大丈夫と言われても説得力は無いし、そもそもその事実は当人であるはずの二宮すら寝耳に水だ。誰だ、そんな嘘をしとどについた奴は。
しょんぼりとした様子のしとどに、その表情の理由を聞く前にこの誤解をまずは解いておきたい。

「ちょっと待て、人の話を聞け」

勝手に話を悪い方向に持って行きそうなしとどに言い聞かせる。

「氷見は確かに信頼できるチームメイトだが、それ以上でもそれ以下でもない」
「……別に隠さなくても大丈夫ですよ」
「何故信じない」

本人が違うと否定しているのだから信じるのが筋ではないのか。全く納得のいっていない表情のしとどに、二宮は眉間に皺を寄せた。
そんな二宮に、しとどもむっとしたのか声を荒げる。

「だって俺見ましたもん!氷見さんに優しく上着かけてあげるところも、階段降りる時に手を貸してあげるところも!すごくお似合いでした!」
「………」

お似合いかはともかく、確かに事実として行った記憶はある。
しかしそこにチームメイトへの情以外の他意を持ったことなどない。
傍目から見ても普通のチームメイトへの対応の筈だが、しとどの目にはどうやら脚色されてうつったようだ。

「お前の目にどう映ったかはわからないが、他意は」
「俺、応援します」

応援しているといいつつ当人の話に耳を貸さないのは応援していないと同意義なのではないのだろうか。二宮は現実逃避に哲学的な事を考えてしまうほどに、しとどの言葉が理解できなかった。
何故二宮の言葉を信じない。
取りつく島の無いしとどの様子にどうやって説得すればいいのか二宮が困り果てたところで、突然第三者が現れた。

「何を応援するのー?」
「犬飼先輩!」

するっと二人の輪に入り、しとどの肩へ腕を回して顔を覗き込む一連のスムーズな動きに、しとどは驚いた声を出した。
神出鬼没な犬飼に慣れている二宮は、犬飼の態度に少し眉を潜めたのみだ。

「もちろん氷見さんと二宮さんの応援です!」
「………?ああ、そういう……」

しとどの言葉に、犬飼は直ぐに自体を把握したようだ。
苦笑いを浮かべて二宮をちらりと見上げる。
二宮が苦戦しているのを察したのだろう。
そして任せろと言わんばかりに犬飼はにっと笑って、しとどの頭を撫でる。

「しとどちゃん、二宮さんとひゃみちゃんはそういうんじゃないよ」
「え、でも」
「ていうかひゃみちゃんにも選ぶ権利ぐらいあるしそんな勘違い可哀想だよ」
「おい」
「おっとすみません」

誤解を解く気遣いは助かるが言い過ぎだ。二宮が咎めるように声をかければ、犬飼は返事とは裏腹に悪びれた様子も無く笑った。
そしてそっと悪魔の様にしとどに囁く。

「それに二宮さんは、今他に意中の人がいるんだよ」
「え!!!」

余計な事をしてくれた。
二宮が額に手を当てて顔を顰めるが、しとどはたいそう驚いた顔をした後、二宮の腕を掴んだ。

「本当ですか!?誰ですか…!?俺が知ってる人ですか!?」
「犬飼!」
「えー、俺ちゃんとフォローしましたよー。後は、二宮さんの頑張り次第ってことで!」

しとどからの追及に、二宮は再び犬飼を咎めるが、今度は謝罪すらなく犬飼は笑顔でそう言い放った。
確かに助けられはしたが、これでは全く意味が無く。
二宮の腕を握るしとどの手が微かに震えているのを見て、さてどうしたものかと二宮は頭をかかえた。








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