アフトクラトルの人4 //アフト遠征前のアフト国にて ベルベッドの絨毯が敷かれた邸内を歩いていると、後ろから声をかけられてヒュースは振り返った。 「ヒュース」 「しとど様!お久しぶりです、お変わりないでしょうか」 「嗚呼、ないよ」 顔をほころばせてしとどの名を呼ぶと、しとどは目を細める。 表情はさして変わらずとも、ふわりとしとどを包む空気が和らいだ。 ヒュースはその瞬間が好きだ。気を許されているようでうれしい。 「遠征のメンバーに選ばれたらしいな」 「はい、お話ではしとど様も同行されるとのこと」 「ハイレインに頼まれた。…今回は、色々と目的があるから」 「………聞いております」 含みのある言葉に神妙に頷く。 今回の遠征の最大の目的は、神の代わりを見つけることだ。代わりとまではいかずとも、トリガー使いの大量捕獲。 そして、その陰に隠れされているのが、エネドラの始末。 ヒュースも何度もエネドラの姿を見ているが、行動や暴言が目に余る。 トリガーホーンが脳に根を張った副作用だと言われても、あの男の本来の姿にしか思えず、ヒュースの中では嫌悪の対象でしかない。 しかし公に始末は当然できない。エネドラの持つブラックトリガーは特殊で、その性能を生かしトリガーを持ち逃げする可能性もあるからだ。 そのため今回の遠征のどさくさに紛れて、始末することになっている。 ヒュースは先ほど聞いた説明を思い返す。 メンバーは、隊長に領主であるハイレイン、そしてランバネイン。窓使いのミラ、そして始末を行うエネドラ。 加えてヒュースとしとど。 十分すぎるメンバーに、さらに十分な戦力が加わる。 「ウィザ翁も行かれるのですね」 「俺が声をかけた……。最悪を回避するには、なるべく戦力はあった方がいい」 「しとど様がいらっしゃるのに最悪の事態になるとは…?どういう意味でしょうか?」 「……気にするな」 国宝に匹敵するトリガーを操るウィザ翁が遠征に出ることは、ここ近年聞いたことがない。 お歳もお歳のため、というのもあるが、国の守りを基本としてるのでまさか連れていくとは思わなかった。 ヒュースが想定しているよりもこの遠征は難易度の高いものということだろうか。 それほどまでにエネドラの始末に手を焼いているということだろうか。 しかししとどは深くは語らず、会話を切ってしまった。 口にしなかったということは、ヒュースは知るべきではないことなのだろう。立場を十分に分かっているため、ヒュースは追及しなかった。 曲がり角でしとどが足を止める。 「俺はまだ会議がある」 「はい、お疲れ様です。遠征、よろしくお願いいたします」 「―――……」 しとどは忙しい身だ。 もう少し話がしたいと思っても口にしたことはない。 ヒュースは頭を下げてしとどを見送る。 しとどは何か言いたげだったが、結局何も口にせず去っていった。 |