風間とびびり










俺を見上げるA級3位の風間隊隊長の赤い瞳。
びくびくしながら俺は一生懸命言葉を紡ぐ。

「あ、あの」
「なんだ?」
「自分はその、風間隊長と…お食事をする権利など……ないかと……」

恐怖で語尾が小さくなるのは生存本能的に仕方ないと思う。
俺と風間隊長なんて雲泥の差がありすぎてこうして話をするだけで奇跡だ。天変地異だ。
というか、―――俺は風間隊長をびくびくしながら見下ろす。
赤い瞳が怖くて俺はううっと呻いた。
俺は今風間隊長と壁に挟まれている。所謂壁ドンの体勢という奴だ。全く嬉しくない。

「俺が、そうしたいんだ」
「そ、そうですか。でも出来れば俺は穏やかに過ごしたいと言うか、なるべく人目に付かずにひっそり生きて行きたいと言いますか……」

人目につかずにひっそりひっそりと生きる事が俺の人生の目標だ。
それなのに風間隊長は何故か俺にことごとく話しかけてきて。
俺はこんなに立派な風間隊長と話しが出来るような出来た人間ではなく、ていうか怖いから近づかないでほしいのが本音だ。

「ひっ」

風間隊長が俺の腕を掴むので俺は委縮する。
触れた箇所から風間隊長の体温が伝わってきて、目の前に風間隊長が居る事がはっきりと認識できて怖い。

「つまりその…自分としましてはやはりひっそり生きていたく、食堂などという大衆の目に触れる場所で、まさかのA級3位の隊長とお食事をさせていただく、なんてそんな注目をあびることは、出来れば避けたく思っておりまして」

じっと俺を見つめたまま何も言わない風間隊長の圧力凄い。
俺は「うっ、ううっ」と謎のうめき声をもらす。
遠回しに何度も断るが風間隊長は全く引いてくれない。
俺は、別に風間隊長が嫌いなわけではなく、なんか小さいのにオーラが凄くて普通に怖いのだ。
チキンすぎる俺には未知の領域すぎてびびっているだけだ。

「しとどは俺と食事をするのは嫌か」
「あ、いえ、その……」

食事をするのが嫌な訳ではなく、大衆の目に触れることと、風間隊長と二人でというのが緊張するから嫌なのだけれど。
それを口にする事が出来ないクソチキンな俺は遠回しにまたなんとか断ろうとする。

「ひっそり生きたくて」
「そうか。俺は自己評価として、騒がしくない性格だと思っているが」
「そ、そうですね」

はしゃでいる風間隊長なんて見たことがない。
そこは百も承知しているが、俺が言いたい事はそういうことじゃなくて。

「いや、でも周りがそれを許してくれないというか」

周りがどう思うか分からない。
相応しくないとかいわれて卵を投げつけられる可能性は多大に有り得る。
少なくとも菊地原には文句を言われるだろう。
俺なんて何とかB級にいるけど、A級にあがれる気がしないって言うか、そもそも隊のお荷物なんじゃないかってのが気になって気になって。

「嫌なのか」
「え、あの…えっ!?」

一緒に食事をしたくないのは確かだが此処でNOと言えればそもそも俺はこんなに焦っていない。
NOって言ったら流石に失礼だよなって言う理性はある。
でもやっぱり行きたくない。

「うっ…胃が痛い…」

俺は胃を抑える。
考え過ぎて冷や汗がすごいし、胃も痛くなってきた。
ベイルアウトと叫んで逃げたいところだが、そもそも換装体じゃなかった。つらい。

「嫌じゃないなら別に良いだろう。しとど、行くぞ」
「ひえっ」

風間隊長は俺の手を掴んで歩きだす。
どこにそんな力があるのか俺は引きずられるように足を動かしてしまう。
振り払う勇気も、NOという勇気も無い。哀しい、NOと言える日本人になりたい。

「お、お許しを…!」
「一々飯を食うだけで大げさな奴だな」
「誰のせいだと……あ、はい…風間隊長のせいではありません…俺のせいです……」

実は毎回行っている攻防だったりする。
強引な風間隊長に振り回されて、今回も俺は半泣きで食堂へ行く羽目になった。







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