唯我のオサナナジミ4












簡易ベッドにどさっと落ちて、緑川は溜息をつく。

「あー…負けたー」

最後のアステロイドの乱発はなんなんだ。あの人本当にえげつない。
緑川は最後の場面を思い返してから、がばっと身を起こす。
そのまま部屋から出て、しとどの元へと走った。
しとどは既に部屋から出ており、緑川を見ると機嫌良さそうに笑った。
緑川はその笑顔に絆されさながらも、口を尖らせる。

「8対2かぁ。完敗だ」
「そんな簡単に負けらんないからな」
「しとどさんやっぱり強い」

可愛いだけじゃない。この人は、心も凄く強くて、そして実力もある。
草壁隊として同じ隊にいられるのが誇りに感じられるような、頼もしい人なのだ。
ラウンジにいるB級やC級が呆気にとられた顔をしているのを見て、緑川は溜飲を下げた。顔だけを見て陰口をたたくような他の隊員に憤りを感じていた。その為時々こうしてモニターがある場所で挑むのだ。この人は強い。緑川はそれを知らしめたいのだ。
やっぱり理想通りだと、緑川は満足して、緑川とそう身長の変わらないその痩身に抱きつく。

「しとどさーん!好きだー!」
「ハハ、そりゃどーも」

背中をぽんぽんと叩いてくれて、包容力にほっとすると同時に、守ってあげたいと緑川は強く感じた。
この人は強いし、そんな事は望んでいないのだろうけれど、緑川はしとどを大切にしたかった。
良い雰囲気になってきたので食事に誘おうかなと思っていると、それをぶち壊しにする存在が来た。

「しとど!」
「ああ、尊。まだいたんだ」
「居たよ!僕の用事はまだ終わっていない!」

唯我の登場に緑川はそっと顔を歪める。
しとどは呆れたような声を出しているが、しとどが本気で嫌がっていないことぐらい緑川にも分かる。だから面白くない。

「というか、キミ、そろそろ離れたまえ!」
「えー、別にいいじゃないですか。しとどさん嫌がってないし」

指摘されるような事じゃないと、緑川は見せつけるように一層強く抱きつく。
唯我の顔が引きつったのが分かる。

「俺としとどさんは、同じ隊だし」

コネであがってきた唯我と違って、緑川としとどは実力で上がり同じ隊にいる。
特別で運命的な関係なのだ。

「駿、重い」
「はーい」

しとどが煩わしそうな声を出したので、ぱっとその手を離す。
名残惜しいけれど、嫌われたくは無いし、唯我のような扱いには成り下がりたくない。
緑川は気を引くようにしとどに話しかける。

「ね、しとどさん飯いこうよ」
「んー…飯ねー…」

煮えたぎらない返事だった。
お腹が空いていないと言う訳ではなく、何か他に気がかりなことがある様子だった。
どうしたのかと聞こうとするが、先に唯我が割って入ってくる。

「ちょ、僕が先に誘おうとしたのに…!」
「尊?」
「しとど。今日は、僕と食事をしよう」

きりっとした顔で誘っているが、しとどはいまいちピンと来ていない様子だ。

「こんな場所じゃなくて、ホテルを手配するから」

こんな場所という言葉に緑川はむっとした。
直ぐに金をちらつかせてくるのは、野山を駆けまわっていた緑川からすれば全く意味がないことのように感じる。
おまけにしとどはそんな高そうな場所じゃなくても、普通に大衆のラーメン屋とか、食堂とかそういう場所でも楽しそうにしている。
見た目からきめつけているような言葉に、自分の事ではないのに緑川はさらに苛立った。

「しとどさんはそんな堅苦しい所好きじゃないよ」
「キミに、何が分かると言うんだ!」
「分かるよ、ずっと同じ隊だし。金と権力にかこつけてる先輩よりずっと」
「っ」

緑川としとどが同じ隊という特別な関係だと言う事と同じように、唯我もしとどとは幼馴染という特別な関係で。
だからこそ警戒してしまうのだ。
しとどは、普段唯我に対しては辛辣だけれど。

「駿」

ぴくっと身体が震える。
あ、やってしまった。
緑川はしとどの声に反射的に謝る。

「ごめんなさい」
「俺にじゃない」

そう言われて、緑川は唯我に頭を下げた。
嫉妬していた自覚はある。唯我次第ではしとどと同じ隊なることはできるかもしれないが、どれだけ望んでも、緑川にはしとどと幼馴染になるというその特別だけは過去がかえられないため得られない。

「先輩、ごめんなさい」
「……いや、僕は寛容だからね。気にしないさ」

唯我もしとどの声音に我に返ったようだった。
緑川は頭を掻く。
これは駄目だ。今日も負けた。
その勘は残念なことに外れなかった。
しとどは仮想戦闘ルームの出入り口へと向かう。

「尊、飯行こ。お前の親父さんに用事あるし」
「っ、嗚呼!」
「じゃあな、駿」

ひらりと手を振ってしとどは行ってしまう。唯我も慌ててその背を追った。
しとどは唯我に対しては辛辣だけれど、それが常識を逸脱した事はしないし、不当な唯我への扱いにはきちんと腹を立てる。
羨ましい、その気持ちを隠して、緑川は去っていく背中に声をかけた。

「ちぇ、今後は一緒に行ってくださいよ!」

しとどは一度振り返ってこくりと頷いた。
その返事を見て、緑川は漸く満足がいった。








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