17歳組とジョソーショーネン


//17歳
//夢主は女装少年です。幼少期に女顔が原因でいじめられた結果、もういっそ女になれば解決ではという短絡的なきっかけで女装をしている。自分に最も似合う格好をしているだけで、女子になりたいわけじゃない。だがしかし女子力高め。
//あんまり関係ないけど、犬飼の幼なじみでアタッカー、薙刀使い。
//とりあえず男だって分かってるのにいつもビビる辻ちゃんの話









猫が弱点の尻尾を踏まれたような、そんな潰れた声に、三輪と米屋は振り返る。
廊下の壁に張り付くような形で座り込む男。

「またか」
「つじー、大丈夫かー?」

米屋が声をかけても返事はなかった。
恐らく跳ね出そうな心臓を抑え込むのに必死なのだろう。
奈良坂は辻の横に立つ少女のような少年に声をかける。

「しとど何をやったんだ?」
「いや、別に。後ろからハグしただけ」
「容赦してやれよ…」

出水の憐れんだ声にもしとどは可憐に首をかしげるのみだった。
今日はファーのついたショートブーツに、黒いタイツ、芥子色のミニのタイトスカートに細いベルトをして黒いハイネックのセーターを着ている。
その上からオーバーサイズのざっくり編みのカーディガンを着ており(出水の記憶が正しければあれは犬飼からもらったものらしい)髪型はサイドに細い三つ編みをつくっていた。
街を歩けば何も知らない男が騙されてナンパでもしそうなほどクオリティが高いが、しとどは男である。膨らんで見える胸部も残念ながら偽物だ。
どこからどう見ても女なので言われた当初は信じられなかったが、しとどの幼馴染である犬飼の「男だよ。ついてるし」というその一言で信じざるを得なくなった。
しかし辻は未だに半信半疑のようで、不意打ちをすると見ての通りえらいことになってしまう。
壁に張り付く辻に、流石の米屋も哀れに思った。

「流石にあの状態の辻は可哀想だろ…」
「ひどい。前から抱き着くのが禁止だって言うから後ろからしたのに」
「後ろからの方が心臓に悪いだろ」
「え?そう?」
「やるなら俺にやれよ」
「あ、うん。わかった」
「分からんでいい。出水も余計な事言うな」

どさくさにまぎれようとした出水だったが三輪にぴしゃりと跳ねのけられてしまう。
ちっと舌打ちをする。しとどに厳しいくせにそういうところは目ざとい。
しとどが辻の隣にしゃがんで顔を覗き込もうとする。女子みたいに膝をそろえてしゃがむところもさすが徹底している。

「辻ちゃんごめんね。大丈夫?」
「お前分かっててやっているだろう。追い打ちをかけるな」
「秀次くんひどい」

しとどは拗ねたような表情をしてから、辻に向きなおった。
助け起こそうと手を伸ばす。ぱしっと拒絶の音が響いた。

「……手、払われちゃった」
「違っ、ごめ……っ」

慌てた様子で辻が弁明しようとするが、隣にしゃがむしとどと想像以上に距離が近かったのか、また壁に戻っていった。
米屋が目を丸くする。

「すっげぇ反応」
「なんか今日は当社比3割キラキラしてっからな……え、泣い、て」

うつむいてしまうしとどに出水と米屋が焦る。
そうだよな、さすがに助け起こそうとして拒絶されれば傷つくよな。

「泣くなって!辻も吃驚しただけだから!」
「そうそう!な、辻?」

辻も壁に張り付きながら声なく何度も頷く。
辻も悪気があるわけではない。過剰なまでに女が苦手なだけだ。そもそもしとどは女ではないが。

「泣き真似はその辺にしておけ」
「え」
「やだ、秀次くんネタバレはやすぎ」

三輪の冷たい声に、しとどがぱっと顔を上げる。
その頬は全く濡れていない。むしろ綺麗なまでに真っ白で。

「泣いてねーのかよ!」
「紛らわしいことすんなよな!」
「ごめんごめん」

米屋と出水が騙されたとショックを受けると、しとどは目を細めて笑った。





三輪が辻を引っ張りあげて立たせ、米屋と出水が辻を慰めるのを奈良坂は少し離れて眺めた。
強制的に距離を取らされて離れているしとどに声をかける。

「大丈夫か」
「うん。泣いたら、お化粧崩れちゃうからね」

しとどが綺麗な笑顔で笑う。その笑顔が、切ない色を含んでいることを、奈良坂は気が付いていた。
辻をからかうのが悪いのだが、それでも拒絶されるのは辛いのだろう。

「いつもと少し違って見えるが、化粧品変えたか?」
「ファンデーションにラメが入ってるやつ使ったんだ」
「嗚呼…それで今日はキラキラ光って見えたのか」
「ラメが綺麗だよね」
「そうだな、似合ってる」
「やだー、透くんイケメン」

嬉しそうに笑うしとどに、奈良坂がどさくさに紛れてそっと肩を抱こうとしたら、目ざとい三輪に見つかり咎められた。








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