奈良坂のオサナナジミ


//一般人 奈良坂は自覚してますが夢主は無自覚です









窓の外に突然人影が現れて俺は持っていた書類を落としそうになる。

「うわっ!…な、なんだ透か。驚かせないでよ」

野生の不審者かと思ったじゃないか。
外はもう暗くなっており、真っ暗中に佇む透は普通に怖い。ホラーか。
俺は窓を開けて声をかける。

「なんでそこに居るの?」
「帰ろうと思った所で電気が付いていたからな」

なるほど、どうやら態々様子を見に来てくれたらしい。
透はボーダーに所属しているから任務で欠席していた日の補講でも受けていたのだろう。

「生徒会の仕事まだあるのか?」
「ううん。もうほぼ終わってるよ」
「ならしとど、一緒に帰ろう」

俺に異論はない。
でも、今日は任務はないのだろうか。

「ボーダーは?」
「今日は非番だ」

そうか、なら一緒に帰れるな。
俺はこくりと頷く。

「いいよ。ちょっと待ってて」
「昇降口にいる」
「了解」

くるりと向きを変えて昇降口に行く透に俺ははっとして慌てて帰り支度を行う。
机に散らばっていた資料をかき集めてとりあえずファイルに挟んでおく。
明日朝やればいいや。
俺はカバンを引っ掴み生徒会室の扉に鍵をかける。
職員室に寄って鍵を返却して、急いで昇降口に向かった。

「透、お待たせ」

昇降口の扉を背に立つ透は、とても格好良くて流石王子様だと思った。
昔から透は王子様なのだ。幼稚園の演劇の役でも王子様で、小学校でも王子様の役で、中学でも王子様の役で、高校も王子様の役で…もう生まれが王子様といっても過言ではない。
そんな俺は幼稚園は何故か幼馴染のお姫様で、小学校は幼馴染の王子で、中学は王子の幼馴染の従者で、高校は王子の幼馴染の騎士だった。どんだけ幼馴染を推されてるんだ俺。
隣通しに歩く。
透はいつの間にか背が伸びていて、すらっと手足が長くてうらやましい。
暗い夜道、俺は体を竦める。

「うー…寒い」
「今年は暖冬だと言うが、夜は冷えるな」
「だねぇ」

日中暖かいとつい油断する。
教室に置き忘れてきたカーディガンを今更取りに戻る気力はなくただただ耐えるしかない。

「今年ももうすぐ終わるんだなぁ」
「…今年も初詣一緒にどうだ?」
「ほんと?ぜひぜひ」

俺も透と行きたいと思っていた。
透がボーダーに入ってからも毎年なんとなく一緒に行っていたが、今年はどうなるのかよく分かっていなかった。
今まで約束したこともなかったのに今更「初詣一緒に行かない?」とか自分からは言い出しづらかったのでほっとした。
つまり今年も年末年始は一緒にいられるようだ。
俺たちは毎年、年末年始はどちらかの家に転がり込み一緒に過ごしている。
透と炬燵で蜜柑を食べながら笑ってはいけない〜を見る時間が俺は好きだ。

「一緒のクラスになれますようにって祈らないとなぁ」
「まさか別のクラスになるとは、な」
「ホントびっくりだよ!14年間同じクラスなのにまさか離れるとはねー…半身が失われたような心境だったよ」

俺と透は幼稚園の時からずっと一緒だが、クラスも離れたことがなかった。
兄弟でもないのにずっと一緒な俺たちに女子は赤い糸だと羨ましがったが、実際には俺と透の間にあるのは赤い糸でもなんでもなく、ただの幼馴染という関係だ。
ずっと幼馴染だろなぁと思っていたけれど、この1年はじめてクラスが離れて実感した。
居て当たり前で、いないと虚無感がすごかった。
透がボーダーに入った時もこんなに喪失感を覚えたことはない。
俺って、透がいて初めて1つになれるんだなと思った。

「透は?」
「……俺も同じ気持ちだ、しとど」

俺だけがそんな異常な感情を持っているのかと思ったが、透もどうやらそうみたいで、ほっとした。
俺がいて、透がいて、それだけでいいのに、それがままならないのが世界なんだなと、改めて俺の常識の小ささを知った。

「来年は、高3かぁー…受験だなぁ」
「そうだな」
「志望校決めた?っていうか透はボーダー提携校か」
「一応、他も視野には入れている」
「そっかぁ」

なんとなく透にひっついて今まで進学してきた。
でも俺べつにボーダーじゃないし、ボーダーの提携校に進む意味ってないんだよなぁ。

「お前はどうするんだ?」
「んー…まだ具体的には決めてない」
「そうか」

やりたいことは、微妙に見えている。
残念ながらボーダーの提携校にはそれがない。
俺はこの1年で気が付いてしまった。

「俺この一年で、多分ずっとこのままじゃいられないんだろうなーっていうの理解したよ」

透とずっと一緒なんて無理だったんだ。
俺たちは赤い糸でつながっているわけじゃないし、どんなに半身だと思っていても、兄弟でも、まして血縁者でもない。
クラスが離れればそっと離れていけるような、希薄な関係だったんだ。

「だんだんと透がいない生活が、普通になっていくんだろうね」

いつか卒業アルバムでも見て、ああ奈良坂透なんて幼馴染居たな、と皺がれた手で懐かしむ日が来るんだろうか。
今の俺にはその感覚が想像もつかなくて、でもなんだかそれは悲しくて、俺は夜の空気に寂しさを逃がした。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -