▼  青の運命



ベレトはレイネに手を差し出し、静かに問いかける。


「青獅子学級に来ないか」


青獅子学級。
王族とそれに従する生徒たちが集う学級。
レイネは思考する。千年前の書物を読み解けるベレトが担任として身近に居るという環境は間違いなく魅力的だった。ベレトはレア司教に目を掛けられているから、上手く立ち回ればレア司教と接触する事も可能かもしれない。レア司教は女神を祀る信仰、その教祖だ。女神に関して詳しく調べるのであればこれ以上の人脈は存在しない。
打算的なメリットが脳裏に組み立てられていく。自身が異質な記憶を持ってフォドラに降り立ったを理由を求めるのであれば、青獅子学級に移ることはこの上ない好条件――そのはずだ。転級のための理屈が積み重なっていく。

「(でも、ヒルダたちとは離れる)」

転級へ傾いた思考に差し込まれたのは、金鹿学級の面々についてだった。
レイネは馴染み始めた金鹿学級を離れる事を惜しく思う自分がいることに驚く。短い間にも親交を重ねた同級生たち。久々の友人との交流は想像以上に大きなものだったらしい。
感情が、問いかけに応じようと伸ばしかけた手を引き止める。壁に阻まれたように止まった指先を見、レイネの迷いを察したベレトは言葉を重ねた。

「返事は急がない。考えてくれると嬉しい」
「……」

士官学校に在籍できる期間は一年間。卒業すれば故郷に戻ることになる。田舎町に戻ってしまえば自身の存在理由について探求することは難しくなるだろう。町長の娘として家業を継ぐ事になるかもしれないし、どこかに嫁ぐよう勧められるかもしれない。
――立ち止まってはいられない。一刻も無駄にはできない。そう思えば腹は自然に括られた。士官学校に入学した大きな目的がある。
引きかけていたベレトの手のひらを掴んで引き戻す。顔を上げ、新しい担任教師を真っ直ぐに見据えた。

「移ります。ベレト…いえ、先生」

私は、此処に居る理由を知りたい。







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