▼  遠来の旅人





レイネが一階へ降りれば、父であるルーバートが弾んだ声で誰かを出迎えているところだった。来客は貴族や外海からの要人などではなく、どうやら親しい人物らしい。

「ジェラルト、戻ってくるなら便りの一つでも寄越せばいいだろう!」
「だからそう大きな声を出すな。海越しの便りなんざ、いつになるか分かったもんじゃねえ」
「すまない、つい。……まあ、今の時期は嵐が多くてまともに鳩も飛ばないから仕方ないか。おや、そちらは」
「ベレトだよ」
「あの時の赤子かい?大きくなったね。さ、上がってくれ」

ルーバートが横に半歩ずれ、片腕を広げて室内へ誘う。屈強な印象を与える大柄な男性と一人の少年が姿を現した。
ジェラルトと呼ばれた男は持ち前の長身に加えてがっしりと鍛え上げられた肉体をもつ偉丈夫で、ひと目で戦士であると判断できた。それ故足元に佇む少年の幼さと華奢さが目立つ。
ジェラルトと視線が合うと、その勇壮さにレイネは思わず背を正した。

「娘だよ。君たちがパルミラに出てから授かったんだ。レイネ、挨拶なさい」
「こんにちは。レイネ=ヴァステンリユクと申します」
「おう、こんにちは。お前の親父さんには昔世話になってな」
「まったくだ。七年前、いきなり門を叩く大男が現れたかと思えば“傭兵だが海を渡りたい、護衛はしてやるから船を出せ”なんて言い出す。腕には赤子同然の子供を抱いているときた。あのときは本当に驚いたよ。
……さて、立ち話はこれくらいにしよう。宿は決まっているのかい?なんなら泊まっていくといいよ」
「ああ、助かる。色々と話したい事もあるしな」



――


いつの時代もいつの世界も、「大人の会話」に子供は混ぜてもらえない。
子供同士で遊んでおいで、なんて体良く追い出され、レイネは少年を連れて仕方なく自分の部屋に戻ったものの。

「……」
「……」

会話が無い。

「ええと、レイネです。よろしくね」
「……ベレト」

ついでに言うと表情も無かった。