「よおーし、久々のエンタメデュエルだー!」

おー!と拳を突き上げた遊勝塾の面々。遊矢君の快気祝いを兼ねたパーティーで、彼は楽しげに言い放った。
デュエル。その響きに、ぞわりと背筋が逆なでされる。
一瞬のうちによみがえる記憶。さらに恐怖に脚色された最悪の想像が脳裏を駆け巡る。細い身体が容赦なく床に叩きつけられて、骨が折れる音が跳ねる体が飛び散る肉が広がる血が誰かの悲鳴が死が――。


「――待って!」

彼の手首を掴んで引き留める。無意識の行動だった。同年代と比べても小柄なその体躯は、先日のことがあってからなおさら弱弱しいものに見えて仕様がない。
彼は掴まれた手首を見、私を見、「依月?」と首を傾げる。 意図がつかめていない彼を、隣にいた柚子ちゃんが肘で小突いた。

「遊矢!依月さん心配してるのよ。あんなことがあったから」
「ええー?」

不思議そうな瞳は私を覗きこむ。おそらくよほどひどい表情をしていたのだろう。遊矢君は困ったように頬をかいた。

「分かったよ。今日はデュエルしない」
「あ……私、つい」
「いいって、心配してくれたんだろ?代わりに、俺と卓上デュエルしてよ」
「でも私、デュエルは分からないから、」
「俺が教えるよ!柚子たちはコートに行っててくれ」

遊矢君は私の手を掴み返して、コートを背に応接間へ引っ張っていく。
革張りの黒いソファーに向かい合って座ると遊矢君は自分のデッキを取り出してテーブルに広げた。






――――――





「カードには種類があって、モンスター、魔法、罠に分かれてる」
「……うん」
「モンスターにはレベルがあって、それによって呼び出せるモンスターに制限がかかってて」
「……うん」
「レベルの低いモンスターは手札からそのまま召喚できるんだけど、レベルの高いモンスターを呼ぶにはいくつか方法があって……って依月、聞いてる?」
「うん……えっ?」
「もー、依月ってば上の空でさ」

遊矢君が頬を膨らませて拗ねている。つい気持ちが沈んでしまい、遊矢君の話を聞くのに身が入っていなかったらしい。

「……ごめんね。せっかく久しぶりにアクションデュエルできる筈だったのに、引き留めちゃって」
「え?」

遊矢君はそこできょとんとした顔になり、しばらくして難しい顔になる。

「柚子が言ってたけど……責任、感じてるのか?」
「そりゃあ、ね。それにあのデュエルは、私にアクションデュエルを見せてくれようとして始めたものだったし」

あの時、遊矢君は落下する寸前に私に向かってウィンクをした。
デュエルに集中できなかったのは、体勢を崩して着地を誤ったのは、私がいたせいではないか。そもそもあの事故が起きたデュエルのきっかけは私だ。
「私のせいで」という自責の念は、遊矢君が事故に遭ってから現在まで内心を蝕む。

「自分勝手な心配だって分かってる。分かってるから、もう引き留めたりしないよ。
でも、無茶だけはしないでね。……お願い」

私に彼を縛る権利はない。私の罪悪感から来る自分勝手な嘆願に、彼は笑って「わかった」と返事をしてくれた。

「なあ、さっき俺を止めたのって俺を心配してくれたってことなんだよな?」
「え?そうだよ」
「そっか……そうだよな、へへ。そうだ!紅茶飲む?」
「うーん、いや、喉は渇いてないかな」

照れていたかと思うといきなり上機嫌になった遊矢君はいいからいいからと私を言い込めて立ち上がり、少し離れた湯沸かしポットの置いてある場所まで歩いていく。

もしかしたら、元気づけてくれようとしているのだろうか。年下の少年に気を遣わせるなんて、ダメだなあ。柚子ちゃんにも見透かされていたようだし、と反省点がぼろぼろと出てくる。
少し神経質になりすぎたかもしれない――。

溜め息をついてソファの背凭れに身を預けるのと、ティーカップの割れる甲高い音がしたのは同時だった。

一体、何が。


「あ、っつ…!」


紅茶を入れていたはずの遊矢君がよろめいてこちらを向く。
浮かべているのは苦悶の表情。彼が右手で抑えている左手が、私の目の前でみるみる あかく 腫れあがっ て


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