近年は見舞い品にも色々と種類があるらしい。

花屋で見舞いの花について相談すれば、店員さんにお勧めされたのはプリザーブドフラワー。生花のみずみずしさを保ちながら二年ほど枯れず、縁起も良い。さらに世話をする手間も要らないため見舞い品としてうってつけで、人気があるのだと店員さんは語った。
男の子が花を貰っても困るだろうが、置物として活用できるなら家に飾ることもできるだろう。見舞い品らしく鉢ではなく丸い瓶の中に飾られたそれは四方に華やかさを振りまいていた。
値段によりランク付けされたそれらの中で、贖罪の意を込めて少し値の張るものを選んだ。








病室のドアの前で、深呼吸。
意を決してドアをスライドさせると、いくつかのベッドがカーテンに仕切られていた。静かな空間に息を殺して歩を進めると、窓に近いベッドに、見覚えのある赤と緑の髪を見つけた。二度目の深呼吸をして飛び込む。


「遊矢くんこんにちは…って」

勇気を振り絞って名前を呼んだというのに、当の本人はベッドの上でぐっすり、だった。
拍子抜けのような、ほっとしたような複雑な気持ちで「えええ……」と呟く。

先ほどまで遊勝塾の面々がいたのだろう。フルーツバケットの中に差し込まれたうずまきキャンディに、いくつかの愛らしいレター。うち一つは開かれたままになっており、「遊矢兄ちゃんはやくよくなってね」の文とクレヨンで描かれた遊矢らしい人物がこちらを見ていた。健気さに笑みが漏れる。
子供たちと入れ違いになってしまったことを惜しく思いつつ、行き掛けに購入したプリザーブドフラワーを備え付けのテーブルに置く。
窓の向こうでは既に陽が傾いていて、赤い陽光が容赦なく窓から差し込んできていた。目に痛いほどの赤。このまぶしさではおちおち寝ていられないだろうと、カーテンを引いた。刺々しい夕日がいくらか柔らかくなったので、傍らの丸椅子へ腰掛ける。

静かに眠っている遊矢君を見、フラッシュバックするのは落下事故の記憶。あの時も、彼はこんな風に瞼を伏せていた。死んでしまったのかと思うほど、微動だにしなかった。
布団の上に放られた手におそるおそる触れる。温かい。さらに手を重ねる。脈を感じる。それだけで視界が歪んだ。遊矢君が生きている。遊矢君が、此処に、いる。


「ごめん、ごめんね」


頬に張られた湿布と袖から見える腕の包帯が痛々しい。何に対する謝罪か自分でも判然としないまま、傷ついた少年への罪悪感に急き立てられてその言葉を繰り返す。
重ねる手に力が篭ってしまったのだろう。遊矢君が身じろいで、かすれた声を出したので慌てて手を放して姿勢を正す。


「ふあーあ…あれ、依月?」
「おはよう、起こしちゃったね、ごめん」
「いてて…さっきまで素良たちが来てたんだ。入れ違いになっちゃったな」
「そうみたいだね。怪我の具合は、どう?」
「平気平気、大したことないって!いったあ!」
「遊矢君!?」

力こぶを作るため曲げた腕が痛んだらしく、彼はベッドの上で大きく跳ねる。それを見てしまったらとても「平気」には思えない。
胃の中で渦巻いていた罪悪感が再びその重量を増す。本人が起きているうちに、もう一度自分の浅はかさを謝罪しようと口を開いた。

「遊矢君、その」
「あ!これ、依月が持ってきてくれたのか?」
「えっ?あ、うん、枯れない花らしいから、退院したら置物にでも、って」
「依月が選んでくれたんだよな。うれしいよ、ありがとう」

時の止まった花を手に、彼は頬をかきながら笑った。照れくさいほどまっすぐなお礼と笑顔に窮する。同時に、謝るタイミングを逃してしまった。どういたしまして、はやく良くなるといいね。自分の返事は驚くほど白々しい。

結局、自己満足の謝罪はできないまま見舞いは終わってしまった。


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