冷蔵庫の中身を確認しながら夕飯の献立を考える。
自分一人の食事だとモチベーションが上がらず結局適当なものばかりになってしまうが、客人がいるとなれば話は別だ。みっともない料理は出せない。
手抜きじゃなくて、栄養バランスが整えられてて、彩りも取り揃えて……一人の時には考えない手間のひとつひとつが、ゲストがいるというだけで難しくも楽しい。


「俺も手伝うよ。何すればいい?」
「遊矢君は座ってて。せっかく来たんだから寛いでいってよ」
「でも……」
「台所広くないし、手伝ってほしいことができたら呼ぶから」

ね?と有無を言わさないよう畳みかける。正直彼には刃物一本、ピーラーでさえ持たせたくはなかった。
少し神経質かもしれない。けれど予測できる危険があるなら、今度こそ私は、彼の身に降りかかる危険を払い退けたい。たとえそれが道端に転がる小石であっても、万が一彼が転倒するのなら私は先を行って蹴り飛ばす。
日常にでさえあらゆる危険があることを、私は先の事件で嫌というほど思い知ったのだ。心配しすぎるということはない。
そう。もう二度と、あんな悲痛な思いはしたくない。怪我をする遊矢君を見たくない。させるわけにはいかない。それが私にできる唯一の償い。
手を掛けた冷蔵庫の戸が小さく悲鳴を上げた。







「結局依月が一人でやったんじゃんかー……」

並べられた夕食を前にむくれる遊矢君には申し訳ないとは思うが、私はほっとしていた。
遊矢君が刃物に触れることも熱湯に触れることも火に触ることも玉ねぎで目を痛めることもなく無事に料理を前にしている。味噌汁は先につくって熱すぎない程度の温かさだし、鮭を焼こうと思ったけれど小骨が遊矢君の喉に刺さりでもしたら大変だからしょうが焼きに変更した。ナイフを使う料理なんてもっての外だ。グラスや箸をもって転ばれたら困るので配膳も私。遊矢君は真に座っているだけで済ませた。


「さ、食べよっか」
「もー、洗い物は俺がやるからな!」
「食器は割れるんだよ?遊矢君は何もしなくていいの」
「何言ってるんだよ、それぐらい俺にだって」
「怪我しないとは言い切れないでしょ、万が一があったらどうするの。ほら、冷めちゃうから食べようよ」

微笑みかければ、遊矢君は困惑を織り交ぜた表情で私を見上げる。
どうしたのだろう。苦手な食べ物でもあったのだろうか。

「遊矢君?もしかして嫌いなものがあった?」
「いや、そうじゃない、けど」
「ならよかった。生姜は身体を温める効果があるから食べてね。さっきまで氷みたいに冷えてたし、風邪を引いたら大変だからさ」
「うん……」


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