診断は、全治四日ほどの比較的軽い火傷。
二度も私の目の前で起きた事故。未然に止めることが出来ず、今度こそ私は洋子さんと遊矢君に土下座せんとする気迫で謝罪に臨んだのだが、洋子さんも遊矢君も柚子ちゃんも、果てはアユちゃんまでも「依月さんは悪くない、遊矢お兄ちゃんが自分でやっちゃったことなんでしょ?」と苦笑する始末。
私のために二度も遊矢君が傷ついているのだ。私はそれを見ているだけだった。止めることはおろか、危険を察知することもできなかった。
私は確かに責任を感じているのに誰も責めはしない。私のせいでは無いのだと、私に罪は無いのだと、気に病むなと笑ってくれる。いっそ詰られたほうが幾分か吹っ切れることができたのかもしれないのに。








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昼から冷たい雨が窓を叩き、容赦ない暴風が借宿ごと部屋を揺らしている。大型台風レベルにまで急速に発達した低気圧は、今日いっぱいまで猛威を振るうそうだ。
この分だとそのうち雷が鳴りそうだなあ、なんてぼんやり考えながら雨のカーテンを引かれた窓を眺めていると、突然玄関扉が荒々しく叩かれる音がして肩が跳ねる。

「だ、誰ですかー…」

こんな豪雨の日に。そもそも私を訪ねてくる人なんて新聞勧誘以外無いのに。
おそるおそる、チェーンを掛けた扉を開く。と、そこに立っていたのは。

「ゆ、遊矢君!?」
「ごめん、帰りに突然雨が降ってきて……止むまで雨宿りさせて欲しいかなって」
「それは全然かまわないけど…ってびしょ濡れじゃない!入って」

遊矢君を玄関に通すと慌てて脱衣所まで行ってバスタオルをひっつかみ、彼に渡す。触れた指先が氷のように冷たくてぎょっとする。頬を包むように触れれば、まるで体温が感じられない。大理石にでも触れているようだった。

「こんなに冷たくなって…!」
「大丈夫だって〜……へっくし!」
「大丈夫じゃないじゃない!お風呂沸かしてくるから!」

しっかり拭いて待つように言いつけ、風呂場へ向かう。
ほんの数秒の間だったのに、玄関の足場はほとんど色を濃く変えていた。





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「悪いな、風呂まで借りちゃって」

貸したTシャツを着、タオルを肩にかけて出てきた遊矢君の顔は上気していて血の気が戻っていた。
無事に風呂から帰ってきたことに安堵する。シャワーの音を聞きながら、風呂場で倒れてやしないかと気が気ではなかった。

「顔色戻ったね。…よかった」
「もー、依月は心配し過ぎだって」
「温かいもの入れよう。ココアは飲める?」
「いいって、俺がやるよ」
「ダメ。私に、やらせて」

はっきりと言い切ると遊矢君は察したらしい。口の中で小さく「大丈夫なのに」と呟いたもののおとなしく座布団の上に座った。それを確認して冷蔵庫から牛乳を、棚からココアを取り出す。
消費期限が切れていないか確認しながら口を開いた。

「大体、こんな日に出かけるなんて何考えてるの」
「朝は晴れてたんだよ。まさかこんなどしゃ降りになるなんて…母さんだって教えてくれなかったし」
「今日はもうずっとこのままだって。洋子さん迎えに来てくれそう?」
「母さん車の免許持ってないからなあ」
「はあ…洋子さんが良いなら、うちに泊まっていく?こんな天気の中、一度はずぶ濡れになった遊矢君をまた放り出すのは風邪を引けって言ってるようなものだし」
「えっ…良いの?」
「洋子さんに訊いてみてからね」

チン、とレンジが加熱を知らせる。ほどよい熱さなのをマグを触って確認してから取り出し、遊矢君の前に置いた。

「メールは送ったよ」
「じゃあ返信待ちということで」
「あ、来た。『依月ちゃんによろしく』だって」
「返信早い!それじゃあ、晩御飯はどうしようか」


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