「気づく余裕もない」




(本編「気づいてはいけない」→膝枕ルート
「気付く余裕もない」→押し倒されるifルート)










「いっ」

私の隣に座ったかと思うと、ふらりと倒れ込んできた身体。
受け止めきれずに、のし掛かられるがまま押し倒された。
固い板の間に、背中と後頭部がそこそこの衝撃で打ち付けられる。
痛みに悶えようにも、体に掛かる一人分の重さがそれを許さなかった。身じろぎひとつできない状況。

「タクミくん!?だ、大丈夫?」
「……う」

良かった生きてる!という安堵と同時に、なら早く退いてくれ、という切実な願望を覚える。

「タクミくん、私を下敷きにしてる!寝るのは良いけどちょっとずれて!あと部屋に帰ってちゃんと布団で寝た方が──」
「……うるさいなぁ……」

寝惚け、掠れた声。それはすぐ耳元で囁かれたものだった。アンニュイな吐息までついてきたものだからピシリと固まる。
タクミくんはもぞりと動くと、私の横に重心をずらした。
良かった離れた。
ホッとして起き上がろうと片肱をついたその時、腕が伸びてきた。そのまま後頭部を掴まれたかと思うと、ぐいと引き寄せられる。視界にタクミくんの首元が広がった。

「行かないで」
「え、あ」
「そばに……いて……」

強まる抱擁。思考すら固まって、ただ驚くほど速い自分の鼓動がいやでも聞こえる。
いつまでそうしていたのか。彼の寝息が聞こえるようになってから、私は彼から逃げそびれたと悟った。