FEH4部沿い連載1話だけ/眠りと花と妖精と






浮遊感。どさどさと重たい音といくつかの短い悲鳴。額に強い衝撃。
ぶつけた箇所を押さえてくらくらする頭で起き上がれば、誰かを下敷きにしているようだった。
白と金のまばゆい鎧と、紺の髪……。

「……アルフォンス?」
「いたた……。その声は、李依?」
「李依さん!?」
「シャロンに、アンナさん?眠り病の調査に行ったんじゃ……」

どうしてここに、と口にしようとして周囲の異様さに気付く。絵本の中に迷い込んだようなファンシーな森の中。そして花を人の形に象ったような出で立ちの少女がひとり。それが興味津々といった瞳で覗き込んでいる。

「ねえねえ、あなたが“エクラ”さん?」
「え?いえ、私は絵倉くんじゃ……そういえば、絵倉くんは?」
「そうなんです!エクラさんが居なくなってしまって、お兄様が傍に来てくれーっ!そしたら李依さんがふわーっと!宙から!」
「な、なるほど…!?」
「シャロン、李依が混乱しているよ。李依も、ひとまずどいてくれると嬉しいな……」






――






「きっと、夢が混線してしまったのね。夢は蝶と同じ。人から人へ移っていくことがあるの。そうして、人と同じ夢をみることもある。
そのエクラさんと李依さんはきっとよく似ているのね」
「同じ世界から来たエクラと李依の繋がりが、李依をここに呼んだのか…」
「つまりここにいる李依は、私達の知る李依と同じ…現実では彼女も眠り病に掛かったということかしら?」
「ええ。エクラさんと同じように、李依さんも夢に閉じ込められてしまったみたい」
「な、なるほど…」
「なるほど…?」

突然の展開に、シャロンと並んで理解度の怪しい納得をするしかない。
つまり、眠り病の調査に向かった一行もまた眠り病に罹ってしまい、夢の中で目覚めた時には共にいたはずの絵倉くんが居なくなっていた。そして困惑する一行の前に現れたのは夢の住人、ピオニー。
彼女の助言で絵倉くんを呼び寄せようとしたら、現れたのは私だった……。

「つまり私が代わりに来ちゃったからエクラくんを呼べなかったのかな」

アルフォンスは首を振る。

「さっきもう一度念じてみたけど、駄目だったよ」
「そっか……」
「とにかく、ここに来たなら一緒に行きましょ!」

アンナさんのしたたかな前向きさとウィンクはどこでも変わらない。安心できる。





――






タクミは食堂で突っ伏す李依を前にゆるく息を吐いた。

李依の寝顔を見るのはこれで二度目だ。一度はエンブラに操られた李依を取り戻した時。
その時と比べれば穏やかな寝顔と言って良いのだろう。
瞼は伏せて口元もゆるく閉じられて、呼吸の度にゆっくりと身体が上下している。ほんのり頬が赤いのは血流の良さをあらわしていた。
甘いその飲み物が酒だと知ってか知らずか。度数は彼女の許容量を超えていたらしい。
そっと髪を耳に掛けてやれば、柔らかな頬の感触に後悔する。もっと触りたくなる。

「ほら、いい加減起きなよ」

酒に浮かれた頭では、呼び掛けは子守唄に変わるらしい。僅かに弧を描いた唇を見て、タクミは肩を落とす。

「……しょうがないな、まったく」

一体どんな夢を見ているのだろう。どうか、自分とは違って幸せな夢を。
タクミは自分とは違う髪質をそっと梳きながら願う。

そこから、二度と目を覚まさないとも知らずに。