君と出会わなくて良かった







「あ、いた」

柱の陰からひょこと顔を出したのは、エクラと同じ異界から喚ばれたという人物、李依だった。
その全く以て無防備な気配はとうに感じていたが、敵意もない暢気な足音を避ける理由もないために変わらず柱の礎石に腰掛けていた。
誤算だったのは、過去から現在に至るまでまるで接点の無いこの異邦人の探し人が自分だったということだ。

「絵倉くん、貴方を探していましたよ。ただでさえ城内見回ってばかりなのに」
「……構うな」
「私はいいけど、絵倉くんには心配かけないでくださいよ」

既に身分は知っているのだろう。表情に僅かな緊張は見られるものの、この姿にも臆することはない。そんな距離感を図りかねた敬語と、見知った人物に対する親しさのアンバランス。
どの異界でも出会うことのなかった稀有な存在。彼女がいたら、自身の世界は変わっていたのだろうか?自問して一蹴する。無力な彼女がいたところで、あの絶望を覆すことが出来るとは思えない。

「貴方なら、絵倉くんがどういう人か知ってるでしょう?
貴方が避けようとしたって、彼は誰も見捨てないし、捨て置かない」

――ああ、よく知っている。何よりもかけがえの無い半身のような存在。その真っ直ぐな在り方も。

「絵倉くんに召喚されたのが運のツキ、諦めて一緒に行きましょう」

エクラを誇る、自信有りげな誘いは口元が笑んでいた。
ここまでの熱心な誘いからしてこの世界の“アルフォンス”は、彼女と仲がいいらしい。
観念して腰を上げれば表情が明るくなる。かと思えば、笑顔を引き攣らせ視線をそらした。

「迎えに来ておいて申し訳ないんですけど……絵倉くん、貴方を探すためにあちこち歩き回ってるから今どこに居るか分からないんですよね。一緒に探しましょう。というか、城内は貴方の方が詳しいですよね……」

会ったことのない人間に自分を知られている事への違和感や不気味さは不思議と感じなかった。
戦いとは無縁な、いっそ無防備なまでの平和な雰囲気が、そうさせているようだった。

彼女と出会っていなくて良かった。
彼女は僕が護れなかった存在ではないのだ。