after小話:膝枕とはなんのこと




(本編『気づいてはいけない』→after『おはよう、夢見た現実へ』→『膝枕とはなんのこと』)






ふあ。欠伸は私のものではなく、タクミくんのものだった。

「鍛錬中に珍しいね。昨日は眠れなかったの?」
「ん、ああ……哲学書を読み始めたら止まらなくてさ」
「なんだ、ただの夜更かし。また悪夢を見たとかじゃなくて良かった」
「最近は悪夢を見ないんだよね」
「ちゃんと眠れてるんだ、良かった」
「それと、一度良い夢を見れた日があって……この弓道場で寝入ってしまった時なんだけど」
「へー」

そんなことがあったのかと他人事のように聞き流してから、不本意にも膝枕をした時のことかと思い当たる。あの時のタクミくんはずいぶん疲れているように見えた。
答え合わせのように、タクミくんは微笑んだ。

「あの時は李依が傍に居てくれていたからだと思う。ありがとう」
「そんなの、私がやったのは膝を貸すことだけだよ」
「膝を……?そう言えば僕が起きたあの時、李依が正座していたのは」
「あーそれより!睡眠不足なら仮眠は取らなくて良いの?」
「……そうだね、少し寝ようかな」
「それが良いよ!」
「じゃあ、“また”膝を貸してくれる?」
「……口を滑らせるんじゃなかった」