夢主男体化







そろそろ李依が来る時間だな……。
時計は無いが、太陽の昇りで大体の時間を把握しているタクミは鍛練の手を止めた。ほどなくしてその見当通り、ばたばたと慌ただしい足音がこちらに近づいてくる。いつの間にかその瞬間を少し楽しみにしている自分がいた。なんだかんだ絆されている。
それにしてもいつもより慌ただしすぎるような──。
そして扉が開き、現れたのは。

「タクミくん!」

知らない男だった。

「誰だ?いきなり入ってきて」
「わータクミくん薄情者!私と君の仲じゃない」
「そのふざけた馬鹿っぽい話し方……まさか、李依?」
「そんな推測で当ててほしくなかった!」

がくりと膝と手をついたその男は体格も声も、普段の彼女とは似ても似つかない。
とっさに李依の名前が出てきたとはいえ、女が男になるなど心の底から信じられるものではない。
“彼”はパッと顔を上げた。

「でもよく気が付いたね、暫定一位だよ」
「は?」
「シャロンは理解するまで五分はかかったし、アルフォンスにいたっては非現実的すぎて最後まで理解が追い付いていなかったみたいだし、サクラちゃんなんてこっちが申し訳なくなるくらいあわあわしてて」
「ちょっと待て。 その姿、見せて回ってるのか?」
「こうなったものはしょうがないし、とりあえず手がかりを探して、いろんな人に訊いて回ってるんだ」
「一位っていうのは」
「私だと見抜いた時間の速さ」
「あんたは本当に……掻き乱してくれるよな……」
「これでも驚いたし、今でも驚いてるんだよ?朝起きたら声低いし背も違うしで。でも、ちょっと楽しいかなって」
「楽しいわけないだろ……。だいたい、戻れなかったらどうするんだ?」
「うーん、それは困るかも。でもさ、男だったら、私も……いや、俺もちょっとは戦えたりするかな?」
「……はあ」
「露骨なため息。って……もう片付けるの?いつもならまだ鍛練してる時間じゃない?」
「今日はあんたの体を戻す方法を探しに行くことにした。あんた、放っておくといつまでもそのままな気がするし。
ほら、行こう」