02

 




闘技場の端で、エースとセブンとジャックに見下ろされ、両側からマキナとレムに見比べられているわたしと、わたしとそっくりの少女。間違いない。彼女はあの時の少女だ。この出会いが何を意味しているのか。今のわたしには分からなかった。その少女が何かを話そうと口を開いたとき、突然通信が入ったらしく、耳に着けた通信機に手を当てていた。



『わたしよ。…え、マザー?……うん、いるけど…何で?…いや、でもっ、……分かったわ』



やがて通信を終えた少女がわたしの腕を引いて立たせた。ビックリしたが、直ぐに手を離した彼女はそのまま朱いマントを翻して背を向ける。



『マザーがあなたに会いたがってるの。ついて来て』
『は、え?どう、して…』



わたしが問いかけるが、0組(クラスゼロ)の誰もが首を振る。彼らから見たらわたしは一般人だ。いや、誰から見てもそうだろう。そんなわたしが彼らが最も慕っている人から会いたい、と言われている。



『…分かった』



頷くと、彼女たちは歩き出した。それに続こうとしたとき、レムに声を掛けられる。



「あの、…またね」
『え?』
「なんだかあなたとはまた会えそうな気がするんだ。だからその時に名前、教えてね」



ニッコリと笑う彼女はとても暖かかった。レムの笑顔はわたしを酷く安心させてくれたのだ。クンミに殺されかけたとき、わたしは震えていた。怖かったんだ。今でもまだその恐怖が残っている。だからこうやって笑顔を向けてくれたことが凄く嬉しかった。心が、ふっ、と軽くなったんだ。



『ありがとう!』



そう言ってわたしは闘技場の入り口で待つ彼女たちの元へ向かっていった。








所は変わってマザー、基、アレシアの元へ連れてこられたわたしはアレシアに何故か0組と行動を共にすること、ジョーカーと呼ばれたそっくりの少女がわたしの面倒をみることになった。わたしを取り囲んでいる見知った0組のみんなも、ジョーカーも凄く困っているよう。正直わたしもどうしたらいいか分からなかった。



『取り敢えず事情聞かせてくれない?えーと、ツキコ、だっけ?なんで闘技場にいたのか、どこから来たのか』
『あ、えと…わたし…』



そう聞かれてわたしは戸惑う。ほんとのことを言ったほうが良いのか、言わないほうが良いのか。でもこの話をしたところで何かが変わってしまうかも知れない。いや、この世界にわたしが来た時点で、わたしの知らないキャラクターが存在してる時点で、もう変わってるんじゃないだろうか。だったら──



『…あの、実は――』



話してみよう、そう思って口を開いた直後、酷い頭痛に襲われた。まるで鈍器にでも殴られたような痛み。それはジョーカーも同じだった。



「ジョーカー!?」
『なに、これ…っ』
『あ、ぅ…っ』



ふらり、と視界が揺れて身体が床に倒れる寸前、わたしは誰かに受け止められた気がした。








辺りは真っ暗。けれど自分の姿ははっきりと見えている。この感覚、どこかで──そうだ、この世界に来たときだ。クンミに蹴られる前に一瞬だけだけど感じた。その中で微かに声が聞こえて来て、わたしは目を瞑って耳を済ませる。



【あなたとジョーカーは繋がっている……魂の双子なのよ】
『ふた、ご…?』
【魂が繋がっているあなたたちの間でならば真実の話が出来るわ】
『真実の話…?』



ぐるり、と見回すが真っ暗な空間には誰も居ない。しかも声がくぐもっていて誰の声か判断できないのだ。聞いたことのあるような、でも無いような。悩んでいると、再び声がする。



【悲しい時は、彼女の歌を聴きなさい】
『う、た……?』



刹那、眩しく暗闇が明け、目の前には真っ白な天井があった。どうやらここは医務室らしい。少し首を捻れば、隣のベッドで眠るジョーカーの姿があった。ほんと、そっくりだな、なんて思って見ていると不意に彼女と目が合う。



『起きてたの』
『あ、えと…うん…』



同じ顔の存在に思わず目を逸らす。似すぎているのもちょっと複雑。



『あの、ね、ジョーカー…』
『キョウコ』



何かを話さなきゃ、とそう呟いたとき、彼女は言った。突然のことに、え、と小さく言葉を漏らして振り向く。



『キョウコ・アサギリよ。作戦以外の時はそう呼んで』



それが彼女の本名なのか。というかなんて綺麗に笑うんだろう。確かに顔は似てるが、雰囲気は全く違う。クールって言うか、大人って言うか。見とれていたなんて、言えない。



『あ、じゃあ、キョウコ…』
『何、ツキコ』



なんか、くすぐったい感じがした。自分に名前を呼ばれてるみたいだからかもしれない。それからわたしは夢で聞いたことと彼女に話したが、やっぱりそれだけじゃ分からないと思う。だからわたしはほんとのことを話すことにした。さっきの声の言葉によれば、ふたりきりの今ならきっと大丈夫だろう。



『…笑わないで、聞いてくれる?』
『…ええ』



こんなことを言っても彼女は信じてくれないかもしれない。さらに怪しまれるだけかも。そんなことを思いながらも、ゆっくりと口を開いた。



『……わたしね、この世界の人間じゃないんだ』
『……』



キョウコは何も言わない。もしかして最後までは聞いてくれるのかな。恐る恐ると彼女の顔色を伺いながらわたしは続ける。



『それでね、わたしの世界ではこの世界が舞台のゲームがあるの。だから0組のことも知ってるし、ファントマがどんなものかも、この先のストーリーがどんなのかも…知ってる』



でもね、とわたしは彼女を真っ直ぐ見つめる。



『…言いにくいんだけど……キョウコはそのゲームには存在してないの。だから、つまり…』
『つまり、イレギュラー、ってわけ』



ハッキリとそう言われてわたしは顔を俯かせる。その声には何か棘のようなものが混じっている感じがして、冷たかった。やっぱり、とわたしは眉を潜める。けどそれは予想していたこと。



『し、信じてもらおうとは思ってないよ…でもひとりで背負うのは、辛くて…』
『そう……で、私にどうしろと?』



彼女の言葉に思わず顔を上げる。どうして、と聞こうとしたとき、通信が入ったらしく、キョウコはわたしから目を逸らす。そうは言いつつも、彼女の瞳にも声にもわたしを信じてるというものは見られない。じゃあなんで?顎にそっと手を添えて考えてると、話を終えたキョウコがわたしのベッドの隣に立っていた。



『わたしにミッションが発令されたわ。ツキコも連れてと言う命令よ。あなたに死と向き合う覚悟があるなら、ついてきなさい』
『わ…っ!』



それだけ言ってわたしに朱雀の制服を投げて来た。それを上手く受け取って、わたしは背を向けたキョウコを見やる。何故かその背中が寂しいものに感じた。



『わたしは……』



ここで後戻りしたら、ダメだよね。それじゃ何の為にこの世界に放り込まれたのか分からない。怖いけど、でも、わたしだけが傍観者なんて嫌だ。この世界を、0組のみんなを、守りたいんだ。



『……あるよ、覚悟。だってそれが、わたしがここに来た理由なんだもん。多分、そう思う』



キョウコのオッドアイの瞳を見つめ、わたしはそう言った。カタカタ、と震えてる手をなんとか押さえてにっこりと微笑む。それを見たキョウコが哀しそうに笑った気がしたんだ。それがどういう意味だったのか、その時のわたしには全く分からなかった。







(重!?重いって!!!)
(私は片手で持っていたわよ)
(わたしはついさっきまで普通の女子高生だったんだってばー!)
(人間やれば何でも出来るわ)
(キョウコってカッコイイよね)
(な、何で泣いてるのよ…)
(う…やっぱり重……)


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