02

 



ドッペルゲンガーと呼べそうなくらい、そっくりな少女。真っ暗な瞳は違えど、やはり似すぎている。しかしどうしたことか。悩みに悩んで色々聞こうとした時、マザーからの通信が入った。そこにいる少女を連れてきて、と。勿論疑問はあったのだが、私たちは候補生を残して、彼女をマザーの所へと連れてきた。



「あなた、名前は?」



私たち0組(クラスゼロ)の前でおどおどしてる少女は、一度私の方を見てからマザーに向き直った。



『桐生月子…じゃ、なかった…ツキコ・キリュウ、です』
「そう、ツキコ」



いつも私たちを見るような優しい目を彼女に、ツキコに向けるマザー。もしかしてマザーはこの子を知っているのだろうか。



「それにしても、ジョーカーとここまでそっくりとは…奇妙なものですね」



トレイが私とツキコを見比べながら言う。他のみんなも物珍しそうに私たちを見ていた。身体に穴が空きそうだ。



「それで、この子を知ってるの?マザー」



ツキコを見ながら腰に手を当ててマザーに問いかけるケイト。すると彼女は愛用しているキセルを吹かせてから、私に目を移した。



「ジョーカー。あなたが面倒を見てあげなさい」
『え、ちょ、マザー!訳も分からないまま任せられても…』



突然のことに戸惑う私とツキコ。諦めることなくマザーを問い質せば、ぴっ、とキセルでツキコを指す。



「ツキコは今日から0組と共に行動すること。戦い方もジョーカーに習いなさい。魔法も使えるようだから鍛錬を怠らないこと。あと制服はこれ。以上」



はい、と手渡されたツキコは目を丸くする。



『え…?えっ?…えええええ!?』



みんなは、ポカン、としてマザーが出ていった扉を見つめていた。ってか戦い方って…そもそも彼女は一般人であって候補生でも兵士でもない。どうしてこんなことになってるのだろうか。眉間に皺を寄せてみんなを見回すが、お手上げだ、と言いたげに一斉に肩を竦める。私は深い溜め息を吐いた。



「これからどうするんだ?」
『どうもこうも…やるしかないでしょう。マザーの言い付けなんだから』
『え?やるって、何?わたし、どうなっちゃうの…?』



え?えっ?、とわけの分からない顔をして0組を見回すツキコ。第一彼女はどこから来たのだろうか。見る限り朱雀民じゃなさそうだ。襲われていたし白虎民でも、外見から見て玄武でも青龍でもない。そもそもなんで私とこんなに似ているのだ。



『取り敢えず事情聞かせてくれない?えーと、ツキコ、だっけ?なんで闘技場にいたのか、どこから来たのか』
『あ、えと…わたし……あの、実は――』



そこまでツキコが言った時、ズキンッ、と激しい痛みが襲った。頭を押さえて彼女を見れば、私と同じように頭を抱えていた。



「ジョーカー!?」
『なに、これ…っ』
『あ、ぅ…っ』



私はその場にへたり込み、痛みを我慢しようと唇を噛み締めた。しかし痛みは引くどころか増している。そしてそのまま私とツキコは意識を失った。








次に目覚めたのは医務室だった。医務室までは壊されてなかったらしい。その中でも誰も使っていない個室に私たちは寝かされていた。視線を感じで白い天井から、ふ、と視線を横に反らせば、ツキコの姿。



『起きてたの』
『あ、えと…うん…』



少し気まずそうに目を反らすツキコ。確かにこれだけ似た存在が近くにいれば気まずいわよね。わたしだって少なからずそう思ってるから。



『あの、ね、ジョーカー…』
『キョウコ』
『え?』
『キョウコ・アサギリよ。作戦以外の時はそう呼んで』



ジョーカーはただのコードネームみたいなもの。実際、マザー以外からは普段、キョウコと呼ばれている。本名かどうかは覚えていないのだが。



『あ、じゃあ、キョウコ…』
『何、ツキコ』



名前も似てるからだろうか。こうやって呼び合うとほんとに双子のように思えてくる。



『寝てる間にね、ちょっと分かったことがあったの』
『分かった、こと?』



私は身体を起こして彼女の話に耳を傾ける。



『うん。わたしとキョウコって凄く似てるでしょ?だからかも知れないけど、わたしのほんとの話はキョウコにしか出来ないんだって』
『ほんとの話?…誰に聞いたの』



聞けば、分からない、と首を振るツキコ。そしてゆっくりと起き上がって、その真っ黒な瞳を私に向ける。



『ただ、暗闇の中で声が聞こえただけ。でも実際、ほんとのことを話そうとしたらなにかが邪魔するように頭痛がした…キョウコも、だよね?』



そう言えば、と少し前のことを思い出す。確かに何かに遮られるような感覚があった。それが一体なんなのか、今の私たちには知るよしもなかった。



『…笑わないで、聞いてくれる?』
『…ええ』



暫く黙り込んだツキコは、やがて顔を上げて真っ直ぐに私を見る。そこでわたしは信じられない事実を聞いた。彼女はオリエンスではない世界からやって来たとのこと。そしてこの世界がゲームとなっていて、0組がそのメインキャラクターらしいのだ。



『でもね…言いにくいんだけど……キョウコはそのゲームには存在してないの。だから、つまり…』
『つまり、イレギュラー、ってわけ』



ツキコの言葉に続けてハッキリ言えば、彼女は分が悪そうな顔をして俯いた。こんなことを突き付けられて信じられるわけがない。



『し、信じてもらおうとは思ってないよ…でもひとりで背負うのは、辛くて…』
『そう……で、私にどうしろと?』



ほんとか嘘かなんて私には分からない。それでも彼女の目は確りと前を見ていて、曇りは全くない。



『え…?』
『あ、ちょっと待って』



不意に通信が入り、私はそちらに意識をやる。どうやら私だけに与えられたミッションらしい。ツキコも連れていけと言う命だ。



『あなたに死と向き合う覚悟があるなら、ついてきなさい』
『わ…っ!』



バサッ、と壁に掛かっていた制服をツキコに放り投げ、私は肩越しに振り向く。この子は後戻り出来るんだ。私みたいに、私たちみたいに手を汚す道を選ばなくても生きていける。



『……あるよ、覚悟。だってそれが、わたしがここに来た理由なんだもん。多分、そう思う』



そんな泣きそうな顔して何言ってんだか。まだ信じてはいないけど、彼女の覚悟の強さは本物だと感じたのだ。だから私も、出来ることはやろう。そう決めた。








(はい、これ)
(え、ちょ、何!?)
(武器。私のをあげる)
(や、これ、重っ!?)
(たったの20kgじゃない)
(Σ20kg!?!?ってことは40kg両手に持ってたの!?)


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