01

 



放り出されたのは見覚えのない真っ暗な世界。上も下も左右も分からない中、わたしは光を探した。小さく光る光の向こう。そこにあったのは見覚えのある世界の中だった…――



『え…』



目が覚めた時、わたしは空中にいた。なんで、と思った直後、身体中に鈍い痛みが走った。お腹を蹴られたのだろう。下腹部がかなり痛い。



『げほっ、かはっ、はっ、く…っ』



感じたことのない苦痛にわたしは顔を顰める。ズキズキと痛む場所を押さえて顔を上げればわたしの目が見開かれる。



「あんた、どこから現れた?」



そう言ってわたしを見下ろすのはルシ、クンミ。いや、有り得ない。だってあれはゲームの世界のキャラクターで――そこまで考えてあることが頭に過る。トリップ、だ。ネットで見かける夢小説というやつにもよくある話だ。元いた世界からゲームや漫画の世界に飛ばされる。ほんとにそんなことが現実にあるのだろうか。だけど――



「答えろ」
『あぐっ!!』



胸元辺りを蹴りつられて地面へ倒され、さらに骨が軋むくらいの強さで踏みつけられる。彼女の足を掴んで引き離そうとも、力では適わない。



『な、…で…っ』



なんで、どうして、と疑問がぐるぐると頭を駆け巡る。わたしがここに来た理由はちゃんとあるはず。それを見出だせないまま、わたしはここで死んでしまうのか。つぅ、と涙がこめかみを伝った瞬間、何かを察知したクンミがわたしの上から引いた。すると、ヒュン、と何かが風を切った。



『げほっげほっ!!ごほっ!』



急に入ってきた酸素にビックリして咳き込み、わたしは身体を起こす。目の前には長い緑のマントを羽織った青年がいた。呆然としてるわたしの肩を、ぽん、と優しく誰かが叩く。振り向いたわたしの目が再び見開かれた。



「もう大丈夫だよ。立てる?」
『あ、は、い…』



桃色のマントを羽織った彼女にも、目の前の彼にも見覚えがある。レムとマキナだ。嘘だと信じたいが、身体の痛みが現実を物語っている。



「下がっていて」
『でも…』
「君は一般人だろ?」



マキナにそう言われてきゅっと唇を噛む。力がないわたしは何もできない。ここでやられる二人を見ていることしかできないんだ。



「はっ!」
「うぉおおお!!」



マキナとレムがクンミに向かって行くも、原作通りの結末に。見てるだけなんてわたしはイヤだ。わたしに今、出来ることは…――



『っ!』
「何」



わたしは倒れたマキナの元へ走り、庇うように上に覆い被さる。キッとクンミを睨み付けるが、思った通り、嘲笑われるだけだった。



「震えてるんだけど?」
『う、うるさいっ!わ、わたしだって…わたしだって!!』



改めて自分の臆病さを知る。怖くて、どうしたらいいかわからなくて。でもただ立ち尽くしてるだけじゃダメなんだって、それだけはなんとなくわかる。早く、早くと祈るばかり。クンミが、終わりにしよう、とアーマーの中へ入っていった後、一斉にわたしに銃が向けられていた。刹那、ふっ、と頭上に四つの影が掛かった。



『ぁ…っ』



見事に降り立った彼らは武器を取り出し、辺りの敵を一掃していく。すると不意にからだが持ち上がり、驚いたわたしは声を上げた。



『こっちへ!』
『わ…っ!?』



その時はいきなりだったし顔も見てなかったから気付かなかった。彼女はわたしとマキナに、避難して、と告げて戦いの中に戻って行く。わたしはマキナを支え、レムの元へと急いだ。



『大丈夫!?』
「ああ、なんとか…それにしても無茶をし過ぎだ」
『ご、ごめんなさい…』



ああ、まだ震えてる。その手をレムが優しく握ってくれた。それだけで少しばかり落ち着いた気がする。それから自然と黒髪の少女へと視線が向く。なんだろう。あの子が凄く気になる。あんな子、ゲームのキャラクターにはいなかったよね。



『すご…』



彼ら、0組(クラスゼロ)の活躍によって新型魔導アーマーは呆気なく倒された。少なくともわたしにはそう見えたのだ。



『鉄扇…』



彼女の使っていた武器を見る限り、やはり違うと確信した。もしかして、とここに来る前の記憶が蘇る。彼女はあの時画面に映っていたわたしとそっくりな少女なのではないか、と。



『! 血…!!』
「ああ、このくらい大丈夫さ」
「そうだよ。だから安心して。ね?」



ふ、とマキナとレムに赤を見つけてわたしは血相を抱える。この世界では当たり前なんだろうけど、わたしにとっては非日常的なこと。放っては置けなかった。



『ダメ…っ』
「え…」



ふたりの傷に手を翳せば、ぽぅ、と淡い光が傷口を包む。いきなりのことに驚いて咄嗟に手を離した。一体何が…――見ればそこにあった傷は綺麗に消えていた。



『ちょ、え…っ』
「君、魔法が使えるのか?」



そんな…わたしにそんな力は無いはず。そう思った直後、背後で爆発が起きた。振り向けば、彼らがアーマーを破壊し終えたところだった。そして振り向いた黒髪の少女の顔を見た瞬間、今まで以上に目を見開く。



『『嘘…』』



それは彼女もそうだった。それもそうだろう。まるで鏡を見てるかのように、わたしと彼女は酷似していたのだ。朱と蒼のオッドアイ。それを見る限り、やはりゲームの画面で見た少女であった。






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