00

 



今日も今日とてわたしはゲームに没頭している。勉強なんて二の次で、授業中まで隠れてゲームをするくらいのゲーマー。うちの先生は緩いため中々見つからない。たまに友達とマルチプレイしたりして、クラス全体がわたしの味方。まあ呆れられてる友達もいるのだが。



『ヤバいキング!キングカッコイイ!エースも素敵っ!ああっエイトもいいなぁ…でもクラサメさんもカヅサさんもナギも捨てがたい!!』
「あんたホントに飽きないわねぇ」



隣の席の友達に言われてわたしがにっこりと笑うと大きな溜め息を吐かれる。何よ、と頬を膨らませて言えば、彼女はわたしの額を小突いた。



「大人しくしてればモテモテなのに、月子には自覚ってもんがない。だから彼氏が出来ないのよ」
『いいんですー。わたしは二次元が彼氏ですからぁ』



口を尖らせると今度はPSPを取り上げられてわたしは半泣き状態でそれを取り返そうと必死になる。



「お、それ零式?ほんと月子はゲーム好きだな」
『ああっ見てないであんたも手伝ってよぅ!』



面白いからやだ、と男友達は席に戻っていく。くそぅ、薄情者め。それから昼休みが終わるまでに何とか取り返して、わたしは再びゲームを始める。数学とかやってらんないって。



『(さーて、続き続きっと!)』



零式を起動させてプレイを再開する。この作品はキャラクターが魅力的で、一人一人に惹かれる。システムもアクションゲーム見たいで好きだし、主題歌とか声優さんも凄く良い。でも、唯一ストーリーの最後はなんだか納得出来ないんだよね。カッコイイ終わり方かもしれないけど、あんなの悲しすぎるよ。みんなにはやっぱり生きてて欲しい。



『(もし…≠ンたいな世界になったら一番いいんだけどな…)』



二週目をクリアしたら見られる特典映像。あれを見て滾らなかったわけがない。あんな風にみんなが笑っていられる世界がいいよね。



『9と9が9を迎えし時、識なる底、脈動せし。そして始まりの封が切れし時、雷のごとき声音が響かん。我ら来たれり……か』
「桐生」
『ぎゃっ!!!!』



ボソッと呟いただけなのに数学の先生にバレてしまった。当然、PSPを取り上げられ、友達相手みたく取り返せるわけもなく放課後にお呼び出しを喰う羽目に。



『今日は厄日だよぅ…』



結局六限目はわたしらしくないが真面目に授業を受けて、部活に行ってから帰りに放課後職員室へ行った。そこで明日の授業の準備の手伝いをしろと言われて只今夜の七時。冬に近づいている今の時期、辺りはもう真っ暗だ。



『さむ…』



こんな時に限ってマフラーも手袋もないとかマジ死にそう。高校から一人暮らしなわたしは頼る人もいないから誰も迎えになんて来てくれない。親元を離れたのはゲームばかりなわたしをいつも怒鳴る両親がいるから。確かに勉強はしないけど家事ならちゃんとやってるし、部活だってバイトだってやってた。酷くない?



『ま、もう自由の身だからいいんだけど』



零式零式っ、と五時間ぶりにPSPの電源を付ける。歩きながらなんて危ないけど、ここは滅多に車が通らないし大丈夫でしょ。そんなことを思ってストーリーを進める。ああ、あと何回クリアすれば生還ルートを見れるのだろうか。なんて、冗談めいたことを考えながらゲームを起動させた瞬間――

バチィッ!



『きゃっ!!』



突然鋭い痛みが手に走り、思わずゲーム機を地面に落としてしまう。ヤバい、と思って慌てて拾って傷を確認すれば、痛々しく側面にコンクリートが擦れた跡がついていた。



『ギャー!!わたしの紅姫ー!』



涙を溜めて傷を擦るも、当たり前に直らないわけで。因みに紅姫とは買ったときに付けた名前だったりする。あ、携帯は桃子ね。センスないとか言っちゃダメ。



『う?』



チカッ、と一瞬画面が光った。しかし直ぐに消えたのでそれに関しては特に気にしなかった。それよりさっきの痛みってか電流はなんだったのか。壊れたわけ、でもなさそうだ。



『え…』



PSPの側面や裏を見回し、再び画面に目をやれば、そこにはわたしに良く似たオッドアイの少女の姿があった。服装は零式の朱雀の学院の制服に、朱いマント。



『な、に…?』



何かを話してる気がする。でも何故か聞こえない。そっとスピーカーに耳を当てるが、やはり音すら聞こえてこない。落とした衝撃でスピーカーがやられたのかと悩むが、ついさっきまでは音がしていたはず。



『…この子は、誰…?』



す、と画面越しに少女に触れると、身体が淡く輝き出した。



『え?えっ?えええっ!?』



それだけではない。なんだか透けてる気もする。スケルガの効果!?とかこんな時でも現実味のないことをばかりが頭に浮かぶ。ってかほんと何これ。



『ちょ、待っ…――』



さらに光がわたしを包み込み、段々と意識も薄れていく。不意にさっきのわたしと酷似した少女のことが脳に過る。思えばあれは、わたしを呼んでいたんじゃないだろうか。自意識過剰かもしれないが。そこまで考えて、わたしの意識は完全に途切れた。






[ back to top ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -