06

 



私たちは今マクタイにいる。しかし状況は戦場の真っ只中。皇国軍の侵略により、戦力の大半を失った朱雀軍は候補生を軍に編入、実践投入を決した。候補生による精鋭部隊を編成し、魔導院近郊のマクタイ≠奪還する作戦が立案された。候補生になった私たちの初めての任務。



『ぎゃあああああ!?ちょっタンマタンマ!ひぃいいいい!』



取り敢えずこのうるさい子を何とかしてください。私はため息を吐いてブリザガを放ってツキコを狙っていた皇国兵を絶滅させた。



『た、助かったぁ…』
『全く…』



地面に手をついて息を整えるツキコを見下ろす。戦うことは私にとっては造作もないこと。だけどツキコにとっては未経験と言ってもいいくらいに経験がない。実戦となるとこれが初めてのことだ。まあ最初のは例外だろう。



『行ける?』
『な、なんとかっ』



でも彼女は強い。ぐいっと額の汗を脱ぐって鉄扇を取り出すツキコを横目で見ながら私は歩を進めた。私とツキコは今エースたちとは別行動中だ。出撃直接にマザーから別の任務を受けた。裏に待機している皇国兵を一掃しろとのこと。たまにこう言うことを任せられることはあるけど、まさかツキコも連れていけと言われるなんて。



『準備は?』
『大丈夫だよっ』



壁に背を預け、様子を見ながら私はツキコに問い掛ける。そうは言いつつも僅かに手が震えていて、恐怖しているのが伺えた。コツン、と額を小突けば、ツキコは満面に微笑んだ。



『エースたちの援護、頑張らなきゃねっ!』
『ええ、行きましょうか』



互いに鉄扇を構え、私たちは敵の真っ只中に入って行く。危なっかしいツキコを守りながらだが、妙にリズムがあって戦いやすいと感じた。これも私たちが酷似していることと関係あるのだろうか。



『ふぅ…粗方片付いたわね』
『つっっかれたぁ!!』



ドンッ、と鉄扇を地面につき、辺りを見回す。次に座り込んでいるツキコを見るが、やはり腰が抜けているようで、私は苦笑混じりにため息を吐く。



『無茶してない?』
『し、してないよ……って言いたいけど…実はかなり辛い』



彼女は両手を胸の前でそっと組んで小さく縮こまる。その口から紡ぎ出される、戦争を目の当たりにしての思いは、私には理解出来ないことだった。否、理解しようとしてないだけ、なのかも知れない。



「動くな!!」



そんなことを考えていると、ツキコのいた方から声が聞こえて私はそちらを振り向く。そこには皇国兵に銃を突き立てられたツキコの姿。



『あ…ははは…捕まっちゃった』
『ばーか』
「っお前ら状況分かってんのか!?」



暢気に話していると、皇国兵は私に向かって怒鳴り付けてくる。私は今日何度目かのため息を吐いて、鉄扇を仕舞い込んだ。



『状況?分かるも何も、さっきと何一つ変わってないわ。私たちの勝利に、何の介入も許さない』
「は!?意味分かってんのかって言ってんだよ!退かねぇとこいつを殺すっつってんだ!!」



チャ、とツキコの蟀谷に銃口が当てがわれる。



『撃って、その後どうするのかしら?』
「な…っ」
『その子を撃ってから私を殺す?ハッ、無駄な足掻きね。さっきの戦闘を見ていたでしょう?あなたじゃ私に片膝を着かすことすら叶わない。それに――』



す、と目を細めて私は皇国兵を見据え、それからツキコに目を向けた。まるで私を信じてる、とでも言うような真っ直ぐな瞳。彼女は絶望をしていない。私は小さく笑って自然を戻す。



『あなたがその引金を引こうとした瞬間、先にあなたの命が事切れることになるわよ』



ほら、撃って見なさいよ、とでも言うように私は両手を広げ、彼の行動を待つ。私たちは、死なない。その恐怖を知らない。でも私は記憶があるから、失敗作だから沢山の人が感じている死への恐怖を知っている。けれど私はマザーの任務でここにいるわけで、任務達成のためなら私はどんな犠牲も払う。――でも、そんな私を彼女は信じてくれているんだ。



「く…そっ」



やがて皇国兵は降伏を選び、ツキコに突き付けていた銃を地面へ落とした。人の命を奪うことに迷いはない。けれど戦わないことに越したことはないんだ。



『キョウコーーーーー!!』
『きゃあ!?』



皇国兵を縛り上げた後、急にツキコに飛び付かれて私はバランスを崩す。そのまま二人で地面に倒れ、彼女は強く私に抱きついてくる。



『やだもう怖かったぁあああ!!』
『…ったく……泣き虫』



そう言いながらも私は笑みを浮かべて彼女の頭をゆっくり撫でた。無事で良かった――そう思った直後、私に向かってレーザーが飛んできた。



『ぶっ!!』



慌ててツキコの頭を抱えて地面に倒れ込む。



『っぶな…』
『…キョウコ…胸…おっきい』
『おいこら何言ってんだ』



胸に顔を埋める形になってしまって妙なことを口走ったツキコの頭をバシンとぶっ叩いた。しかしその直後、ゾクリと悪寒がしたため、レーザーが飛んできた方に視線を向ければ見知った面々がそこにいて、一番先頭にカードを構えためちゃ良い笑顔の金髪王子様がいらっしゃいました。



「キョウコ」
『あは…』
「君は今日、ツキコと寮で留守番してるって話だよね?」



その言葉を聞いて、何の話?、とツキコは首を傾げる。正直に言えば毎回マザーからの任務は極秘で受けていた話なのだ。だから今回のマクタイの任務も私は出撃しないようになっていた。



『いや、私たちだけ行かないのもあれだと思って、ね…』
「ちゃんと目を見て言おうか」
『…頑張って!』
『ツキコー!!』



くっそさっき助けてやったってのに見捨てやがったよ。何なのあの子。ツキコに手を伸ばそうとしたが、その手はエースによって掴まれた。



「じゃあ帰ろうか、キョウコ」
『ひ…や、ちょっ、待っ』
「待たない」



なんて素敵な真っ黒い笑顔なんでしょうかちくしょう。私はそのまま引き摺られるかのように魔導院に帰りました。







(キョウコ、ちゃんと話してもらうよ。分かってるよね?)
(ハイ、ごめんなさい)


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