05

 




暖かく(?)キョウコとエースを見送った後、わたしも魔導院探索だー!と意気込んだのはいいけど、見回したら既に教室には誰もいなくて。仕方ないからもぐりんの頬っぺたを引っ張って遊んでいた。なんかめっちゃ気持ち良いんですけど。ハマりそう。



「やーめーてークーポー!!」
『あはは、かわいー』



もぐりんを伸ばしたり縮めたりしていると、突然ひょい、と後ろから取り上げられる。ビックリして振り向けば、そこにはクラサメ隊長が立っていた。



『ひぇっ!?ク、ククククラサメ隊長!?』
「何をしていた。他の候補生は院内を周っていたぞ。あとそれを苛めるな」
『苛めてないですー!みんないないからいじけてたんですー!』



頬を膨らませて言えば、ためいきを吐かれた。知ってるよ!クラサメ隊長をひと泡吹かせたキョウコと性格が全く違うからでしょ!?知ってるよ!ぐすぐすと泣き真似をしていると、クラサメ隊長は廊下へ続く扉へと歩き出した。



「行かないのか」
『付き合ってくれるんですか!?』
「不服だがアレシア・アルラシアに頼まれたからだ」
『ひぃいい!ありがとうございますぅううう!』



なんというか、まさかクラサメ隊長が付き合ってくれるなんて思っていなくて、ガチガチに緊張していたわたしは引きずられるように教室から出た。一番最初に行ったのは噴水広場。あれから十数日経った今では、整備もしっかり終わっていて、噴水も綺麗に直っていた。



『これ凄いですね、クラサメ隊長!』
「少しは落ち着け」
『ふわぁ…』
「…そんな珍しいものでもないだろう」



クラサメ隊長といることが酷く注目されているんだろう。周りの目が痛い。わかってる、わかってるよぅ。クラサメ隊長人気だもんね!そんなことを思いながらもキラキラと目を輝かせて辺りを見回してると、クラサメ隊長がそう呟く。そうでもないですよ、とわたしは笑って彼を振り向いた。



『こんなに緑があって、温かいお日様があって、キラキラと水が流れていて。それだけで素敵だと思いませんか?』



ね、とわたしはにっこりと笑った。わたしがどこまで物語に干渉出来るか分からない。この先のことを考えると、自然に思ってしまう。だからこんな何気ない一場面を見て幸せを感じる。それに、彼は──



「…少し話しただけだが、彼女とこうも性格が違うんだな」
『ジョーカーのことですよね。あの子は私と似て非ぬ存在なんですよ。ま、わたしが変なだけなんですけど!』
「それは出会った時に分かった」
『アッソウデスヨネ!』



こうやってクラサメ隊長と話していると、わたしは実感する。わたしは元は別の世界の人間なんだ。もし、彼らが危機に直面した場合、私には何ができるだろう。悔しいけど助けることなんて出来ないかもしれない。



「ツキコ」
『! あ、ごめんなさい!何でもないです!』



慌てて首を振ると、不意にクラサメ隊長が口を開く。



「……何故私に君を任されたか、ずっとわからなかった。今もそれが分からない。だが──」
『大丈夫ですよ。クラサメ隊長と話していたら少し楽になりました』



心配してくれるクラサメ隊長の心がすこし温かくて、なんだか安心した。とても優しい瞳。不安な心を消してくれるような。トクン、と胸が高鳴った。



『!?』
「どうした?」



わたしはバッと彼に背を向けて胸を押さえる。え?え?何、今の。トクンて何!?嘘、もしかしてわたし――



『そんなわけぁあああああ!!』
「!?おい、落ち着け…」



いきなり声を上げたため、クラサメ隊長や回りにいた候補生たちにビックリされた。わたしは顔を真っ赤にして自分の頬っぺたを叩く。



『あ、はははは!大丈夫大丈夫ですよ!!』
「…そうか」



訝しげな顔をされたが、わたしはもう一度大丈夫と言って笑った。ダメだよ、とわたしは彼に背を向けて魔導院を見上げる。だってわたしはイレギュラーだから。いつかはいなくなるかもしれないのに、この世界の人にそんな想いを持っちゃいけないんだ。



『じゃ、次行こうっ』
「あんまりはしゃぐな。転んでも知らないぞ。時間はまだあるんだ、落ち着け」
『はーい!』



それからクリスタリウムやリフレッシュルーム、魔法局、サロンや武装第六研究所をキングと回った。ゲームで見るよりどこも広くて、クリスタリウムなんて下の階にも行けたし、見てるだけで凄く楽しかった。



『あー楽しかった!』
「まだ元気そうだな」
『まあそれだけが取り柄ですから!』



教室に戻ってきたわたしはクラサメ隊長と分かれ、席に座ってから他の人と話していた。ちらほらとみんなも帰って来ていて、そう言えばもうすぐか、と時計を見やる。わたしの記憶が合っていれば、あと数十分でCOMMが鳴るはず。そしたら、また――



「ツキコ、顔色悪いぞ」
『! あ、うん…ちょっと…』



これからまた戦いが始まるなんて、考えたくも無かった。それでも避けられないことはある。物語を語れないわたしは、一人ではどうすることも出来ないから。――そしてCOMMが鳴り響いた。震える肩をバレないように抱えて、わたしはいつも通りに笑った。







(無理して笑うなよ)
(ん?なんか言った?)
(……いや、何も)
(そっか!あ、キョウコたち帰ってきた!キョウコー!!)
(……)


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