05

 




なんでこうなったんだろう。いや、元はと言えばツキコが余計なことをしたからだ。…余計ではないんだけども。ああ、でも余計かも。行ってきなよ、と満面の笑みで言うツキコと、キョウコ、行こう!と、これまた満面の笑みで言われたら断れるわけもなく。なんやかんやで私とエースはテラスにいる。しかもこのマントの色を見たためか、他の候補生たちはそそくさとテラスから去っていってしまって、今は二人きり。さっきのこともあったためか、その、かなり恥ずかしい。



「キョウコ」
『な、何?』
「久しぶりに歌わないか」



そう言ってエースは私の隣に並んで微笑む。思い返せば、昔もこんな風に高い場所に登って二人で歌っていた。木の上に登って歌ってたらみんなが集まってきて、私たちの歌を聴いてくれていたのを思い出す。私が頷けば、そっと手を握られ、ドキッと胸が高鳴った。



『エ、エース…っ』
「ん?何?」



笑顔で、さらに首を傾げて見てくる彼に言葉が詰まる。それから小さな頃にやったみたいに、合わせて息を吸って、歌を紡いでいく。



『「迷子の足音――♪」』



ふわり、と風が髪を撫でる。空は青く澄み渡っていて、マリンブルーに透き通った海は広い。こうやって、またエースと一緒に歌えることが凄く嬉しかった。



『〜♪』
「え…」



1フレーズ歌ったところでエースがピタリと止まるが、私はそのまま歌い続ける。以前ツキコに教えてもらったこの歌をずっと練習していたため、まだ途中までだが、歌えるようになった。



『……最初は、毎日のように一緒に歌ってた』



歌い終え、目の前に広がる海を見ながら私は言う。懐かしいわね、と笑顔でエースを振り返る。



「……キョウコは覚えてたのか…?」
『…いいえ。つい最近までは私も忘れていたわ。でも……ツキコが思い出させてくれた』
「ツキコ、が?」



こくりと頷いてから、彼の手を引いて近くのベンチに腰を下ろす。私が笑顔を見せれば、それ以上エースは何も聞かなかった。



『ねぇ、エース…エースは、どうしていきなり私を、その…好き、だって言ったの?』



ずっと気になってたことを聞けば、彼は繋がってる手を強く握り締めてくる。



『っ、エース…?』
「ツキコを見たとき」
『え?ツキコ…?』



ツキコの名が出てきたことに私は頭の上にはてなを浮かべた。見たとき、って闘技場でのことだろうか。



「…小さい頃からキョウコに感じたことの無い、暖かい気持ちがあって、僕はそれがなんなのかずっと悩んでた」
『うん…』
「マザーに聞いたらそれは恋だって言われたけど、それでもよくわからなかったんだ。だって僕らはずっと一緒だったから」



でも、とエースは私を真っ直ぐに見詰める。吸い込まれそうなその青に、私は手を伸ばしかけたが、それは彼によって止められる。



「あの時、やっと分かった気がした。幼馴染みとしてでも、家族としてでもなく、キョウコが好きなんだって」
『な、に…それ…っ』



軽く手に当たる彼の唇。そこから紡がれる言葉に、私は顔を真っ赤にしつつも聞き返す。



「ツキコの不思議な力、って言ったら納得する?」
『そ、れは…』



非科学的。ちょっと前の私ならそう言ってただろう。確かに彼女には何かを惹き付けたりと不思議な力がある、と思う。私もツキコに会って少し変わった気がするから、そう言うことがあっても可笑しくはない…かも。我ながらなんて考えだ。



「キョウコは僕のこと、嫌い?」



そんな表情で、そんな声で聞かれたら嘘でも嫌いなんて言えなくて、私は頻りに首を振った。私もエースが好きなんだと思う。彼が言った通り、幼馴染みでも、家族でもない、この好きと言う気持ち。



『エースが、好き』



多分自分でも有り得ないくらいに真っ赤になりながら言えば、エースは嬉しそうに微笑んだ。



『え、あの、なんで近いんですか、エースさん…!』



ずいっ、と近付いてくる彼に私は後ずさろうとするが、手を掴まれていてそれは叶わない。



「何でって…キスするから?」
『(!? エースってこんな大胆だったっけ!?)』



どうしようと慌てているうちに、唇が触れるか触れないくらいの距離に来ていた。ドクン、ドクン、と胸が大きく鼓動してるのが分かる。エースの顔は女の私から見ても凄く整っていて、綺麗だ。そう見惚れてるうちに私たちの距離はゼロになっていた。触れるだけのキス。離れたとき、エースの青い瞳と視線が絡み合う。



『エー、ス』
「好きだ」



もう一度、触れ合うまで数センチ、と言うところでCOMMが鳴った。ちっ、と舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。私はハッとしてエースに背を向ける。



『しょ、招集連絡、ですよ』
「なんで敬語なのさ」



ふ、と笑うエース。色々といっぱいいっぱいで、私はずっと俯いたままエースと教室に向かった。







(ん?キョウコとエース雰囲気変わった?)
(!?……どこが?)
(何て言うのかな…距離が無くなったって言うの?)
(ツキコって良く見てるな)
(でしょでしょ?で、結局のとこどうなのよっ)
(別に、何も――)
(僕の彼女)ちゅ
(!?!? エース!!)
(生頬っぺちゅー始めてみた…キョウコってばやるぅ!)
(っツキコ!!)
(ぎゃー!?)


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