04

 




キョウコと力を付けるために修行を初めて約十日。その間に彼女の計らいで手合わせをしてくれたりと、0組(クラスゼロ)のみんなとも仲良くなれた。仲良くなりたいなあ、と呟いていたことを覚えててくれたんだろう。たまにアレシア…マザーに呼ばれて健康診断も受けたことがある。マザーが言うにはキョウコと同じように脳に少し異常があるが、全く問題はないらしい。ちょっと怖いけど、でもキョウコもずっとそうだったんだって。何もないなら、いいんだけど。



『じゃ、私は先に入っているわ』
『うん!わー、緊張するなぁ』
『大丈夫よ、いつも通りにしてなさい』



優しく笑うキョウコがすっごく可愛くて、わたしはそのまま抱き着いた。勿論直ぐに叩き落とされたけど。大人しくしてるのよ、と言われて大きく頷いたわたしはこれから何をしようか算段を立てていた。



『そいえばこの後は名場面っ!わたしも見たい!…見て良いよね?答えは聞いてな』
「あ、君!」
『いぃっ!?お、ふ…(いひゃい…っ)』



急に後ろから声を掛けられてわたしは思わず舌を噛んでしまった。めっちゃ痛い。くっそ誰だよ、と痛みを我慢して振り返れば、そこにはマキナとレムがいた。ごめんなさい。



「やぁ、また会ったね」
「良かった!0組の人たちに引き摺られて行ったときはどうなるかと思ったよ」



ひ、引き摺られてはいないと思うんだけど…でもまあそんな感じもあった気がする。どちらにしろあの時はわたしに拒否権は無かったし。



「あ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私はレム・トキミヤ。よろしくね」
「俺はマキナ・クナギリ。よろしく」
『レムちゃんと、マキナっ』



目を合わせながら言えば、二人は笑ってくれた。マキナ、最初はこんな風に0組のみんなとも笑いあってたよね。この先、どうなっちゃうんだろ。そう考える度に、キョウコに物語を話したいと思ってしまう。別に話してもいいんだ。けど、キョウコは聞きたくない、の一点張り。そりゃそうだよね。彼女もあくまでこの世界の住人なんだから。



「ね、約束通り名前、教えてくれないかな?」
『あ、うん!わたしはツキコ。ツキコ・キリュウ』



呆けていたのかレムが声を掛けてきてわたしはハッとする。よろしく、とふたりと握手を交わした時、エントランス側の扉が開き、クラサメ隊長がやってきた。やばい、めっちゃイケメン…。



「私が指揮隊長のクラサメだ。候補生ツキコ、マキナ、レム、だな?」
「あ、はい!」



ん?候補生?あれ?わたしいつの間に候補生扱いになってんの?まだ正式に候補生じゃないのに…あれか、マザーか。



「悪いがもう少し待っていてくれ」
「分かりました」



マキナの返事を聞いたクラサメ隊長は一つ頷いて教室へ入っていった。これからあのシーンが始まるのかと思えば、いてもいられなかったわたしである。だって気になるじゃん。もしかしたらキョウコが活躍するかもしれないし!!



「ちょ、ツキコ!?」



私はそっと教室の扉を数センチ開けて中を覗く。場面は丁度ナインが突っ掛かっていくところだった。そして彼がぶっ飛ばされる。おおふ、ナイン痛そう…でもクラサメ隊長カッコイイなぁ!



「や、やめた方がいいんじゃないか…?」
『大丈夫、大丈夫っ



やっぱり原作通り、立ち上がったナインが青筋を立ててクラサメ隊長に殴りかかる。しかしそれは簡単に止められてしまい、ケイトもまた返り討ちにされ、エースは素早く取り出された剣を突き付けられていた。



『(あ、あれ?キョウコは?…いない?………あっ)』



さっきまで席にいたのにいつの間にかいなくなっていて。



『後ろが隙だらけよ』



気付いたらクラサメ隊長の首筋に武器の鉄扇を突き付けていた。



『(ふ、ふぉおおおお!!キョウコめっちゃカッコイイ!)』



によによと頬を緩まして、わたしはキョウコを見ていた。その刹那、彼女とクラサメ隊長の間で何やら爆発が起こり、飛ばされたキョウコは教壇に背をぶつけた。



『!!』



クラサメ隊長、いつから詠唱してたんだろう。見る限りあれはガ系の魔法だった、気がする。うーん、と悩んでいると、倒れたキョウコの元にエースが駆け寄っていった。



『(な、何やらいい雰囲気だぞ!?しかもエースってばキョウコのことめっちゃ心配してる!!なんか犬耳見えるよ!!)』



これは恋と言うやつか。実際わたしにはそう言う機会がなかったからか、(友達曰く)自分には鈍感らしいのだが、人の恋には敏感なんだという。うん、なんとなくわかった気がした。



「それと、候補生ツキコ、候補生マキナ、候補生レム、入れ!」
『おふっ!?』
「「ツキコ!?」」



クラサメ隊長の声で、急に現実に戻ったわたしは体勢を立て直す事ができず、扉を豪快に開けて派手に教室内へ倒れ込んだ。べったーん!…と、綺麗に顔面から。



「わー!ツキコ、大丈夫!?」
「だからやめろと言ったんだ…」
『いひゃい…マキナ〜レム〜…』



二人に立ち上がらせてもらうと(わたしから見た感じ)、生暖かい目でこちらを見るキョウコの姿が目に入った。



『…何、やってんの…』
『Σひぃ!もしかしてキ、(じゃなかった…)…ジョーカーに呆れられた!?』



ヤバい、と涙を溜めて言えば、呆れてない呆れてないない、とキョウコが笑った。因みに今はジョーカーと呼ばなきゃならない。こう言う場面、授業やブリーフィングも作戦中と考えろとのことだ。



『えと、改めまして!ツキコ・キリュウです。よろしくお願いします!』



それから教壇の前に立って自己紹介をした後、クラサメ隊長は一言二言喋ってから教室を出ていった。自由時間になったわたしは直ぐ様キョウコの元へ向かう。ちょっとぼーっとしてみたいだが、直ぐに気付いてくれた。



『キョウコ!さっき振り!!』
『何それ。ってか相変わらずね、ツキコ』
『えー?そう?わたしはいつも通りなんだけどな!!』



なんか考え事してたみたいだけどわたしが声を掛けたらいつものキョウコに戻ったみたい。そう言えば、とさっきのことを思い出して、わたしはエースに向き直る。



『エースってキョウコのこと、好きでしょ?』
『ぶっ!?』



率直に聞けばキョウコが噴いた。わあ、面白い反応。やっぱりストレートすぎた?でもいつもわたしはこんな感じだったりする。聞かれた本人はきょとんとしてわたしを見てから、にっこりと笑った。



「うん、好きだよ」
『エース!?』



うんうん、やっぱりね。絶対そうだと思ったんだ。それに結構仲良いみたいだし!イイカンジ?



『それって恋愛感情?』
『ちょっと、ツキコ!』
「ちゃんと異性として好きだよ」



エースってば大胆!真っ赤になるキョウコ、めっちゃかわいいよ!多分これがわたしならとんでもないだろうなー、とか思ってたら頭を誰かに小突かれた。



『あ、キング〜』
「あんまりキョウコをからかうなよ、ツキコ」
『あは、程々にしときまーす』



0組のみんなに囲まれてるキョウコを見ると、イレギュラーだとは思えないな。ちゃんとここに存在してて、みんなに愛されてるキョウコ。



『ね、エイト。自分が言うのもなんだけど、キョウコって可愛いよね!真っ赤になっちゃって〜』
「…お、俺はお前も可愛いと思うけど」
『え〜?ないない!わたしはキョウコと違うもん』



そう言って再びキョウコに視線を戻せば、机に伏した彼女が目に入る。どうやら弄り尽くされたらしい。未だに真っ赤な彼女はやはり可愛い。キョウコだから可愛いんだ。



『あ』



と、わたしはこの次の話を思い出す。確か墓地に向かうんだっけ?



『取り敢えずさ、みんな墓地行かない?』
『墓地?』
『うん、もぐりんも行って来てって』



ねー、ともぐりんに聞けば、ちょっと戸惑ってから頷いてくれたた。もうもぐりんでいいよね?え〜と、なんだっけ…みりたりーおぺれーしょんおーがにぜ……はっつみかね・ろう…ろ……げふんげふん。もぐりん。それからわたしたちは裏庭にでて、墓地へ来た。



「なんだここ?」
『ここが墓地だよ』
「なんだよボチって?」



えっとね、とわたしはナインに説明する。ふ、とキョウコの方を見れば、誰かのお墓の前に立っていた。もしかしてイザナのだろうか。……ほんとに、死んでいったものの記憶が無くなるのはこの世界の人たちがその人たちに縛られないようにとのクリスタルの配慮、なのかな。わたしは忘れることが怖いよ…――



『忘れることがこんなに怖いなんて…』
「ツキコ…?」
『あ、ううん!何でもない!!何でもないの!そうだ、エース!キョウコ呼んできてっそろそろ戻ろ!』
「ああ、分かった」



誤魔化すようにわたしは笑う。わたしが口を滑らしたらキョウコも迷惑がかかる。あの頭痛はリンクしているから。この0組のみんなの笑顔、わたしが守らなきゃ…わたししか、いないから…――






(エースエース)
(なんだ、ツキコ)
(魔導院の散策、キョウコと行くの?)
(出来るならな)
(じゃ、わたしは他の人と行くから行って来ていいよ!)
(え、でも約束してたんじゃ…)
(いーのいーの!じゃねっ)


(キョウコー!!)
(きゃあ!?ちょ、ツキコ!!)
(これから魔導院の散策でしょ!?…エースと二人っきりで行ってきなよ〜)
(はっ!?)
(さっきこっそりエースに頼んで来ちゃった♪)
(っツキコー!!!!)
(きゃーっ(棒))


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