04

 




そしてあれから約十日が経った。私たち、0組(クラスゼロ)は今日から本格的に任務を開始する。魔導院もやっとのことで修理でき、自由に出入り出来るようにもなった。徐々に力をつけてきたツキコのことも少なからずみんなは認めたようだ。勿論この私もその一人。まだまだな所はあるのだが。



『集合場所、ここであってるのよね?』
「ああ、そのはずだ」



宛がわれた0組の教室に、今全員が集まっている。因みにツキコは後ほど教室に来るらしい。ふ、と時計を見れば連絡された時間はもうすぐだ。



「そう言えばツキコとはどうだ?」
『悪くないわ。臆病だけどとても芯は強い。信じられる、と私は思ってる』
「そうか。…不思議な子だよな」
『ほんと、不思議よ』



暫く隣に座るエースと話していると、突然扉が開いてマスクを付けた男性が入ってきた。彼は教壇の前に立つと、ぐるりと私たちを見回す。



「一応、初めてとなるな。私が諸君の指揮隊長となるクラサメだ」
「指揮隊長?」



クラサメ。確か首都解放作戦の時に私たちに指示していた者だと記憶している。その彼を誰もが眉を潜めて見ていた。



「そうだ。諸君は私の指揮下に入ってもらう。すでに魔法局局長、アレシア・アルラシアより、許可が下りている」
「マザーから?」
『まさか』



エースと私は顔を見合わせた。すると彼が来てから、ずっとイライラしていたナインが、帰れ、と声を上げる。



「俺らはマザー以外の指図は受けねぇぞ、あぁん!?」



席から立ち上がって青筋を立てる彼。



「お前はお呼びじゃねぇんだよ…!?」



ガッ!と、彼は突っ掛かって来たナインの顔を突然殴ったのだ。いきなりのことに私たちは目を見開く。そのままぶっ飛ばされたナインは、裏庭に続く扉に激突した。



「ちっ!イテェじゃねえかよてめぇ!ゴラァ!!」



舌打ちしたナインがクラサメに殴りかかろうとしたが、呆気なく止められ、教壇の向こうに投げられた。



『っ!!』
「このっ!」



次にケイトが飛び出して魔法銃を取り出す。しかし彼の魔法によってそれは阻止された。その隙を狙ってエースがカードを構えるが、瞬時に現出させた剣を突きつけられて身動きが出来なくなる彼。



『後ろが隙だらけよ



誰もが終わりと思ったが、チャ、と開いた鉄扇を背後から首筋に突き付けた私。技を応用した高速移動で背後に回ったのだ。だがいつの間に詠唱していたのか、私の鉄扇が届く前に、目の前で魔法が爆発した。



『きゃあ!?』
「ジョーカー!!」



がっ、と教壇に背をぶつけ、そのまま床にずり落ちる。



「ひゃ〜、強いねあの人」
『っく…』



私もバカではない。対峙した時に強いと感じた彼。それでも家族を傷つけられたことが気に食わなくて、思わず飛び出してしまった。



「っざけんな!」



立ち上がったナインが再び向かって行こうとしたが、クイーンが前に立ち塞がり彼を止める。



「やめなさい!マザーの決定だと言ってたでしょ!あなた、マザーの命が聞けないの?」
「ぐっ――だけどよ!こいつジョーカーに容赦なかったんだぞ、コラ!?」



確かに。あれはガ系の魔法だった。それを証拠にまだジンジンと全身が痛む。そんな私の体をエースが支えてくれて、ゆっくりと身を起こすと、大丈夫よ、とナインに告げる。



『大したこと無いわ。ナイン、落ち着いて』
「おお、う……」



笑う私を見て、彼はしぶしぶ頷いた。



「気が済んだか。以後、諸君は私の指揮の下、主要作戦(ミッション)に参戦してもらう。こちらから指示のないときは他の候補生と同じように院内で生活するがいい」
「院内で?」



訝しげにケイトが聞けば、そうだ、と頷くクラサメ、隊長。ここ、魔導院にはマザーに連れられて、全員が二回程来ているが、そんなことは一度もなかった。



「それもマザーから?」
「あぁ。ドクター・アレシアからの指示だ」
「ふぅん」



納得出来ない、しかしマザーの言うことなら、と少し投げやりな態度でケイトが呟いた。すると不意にクラサメ隊長が私を振り返る。



「先程はすまなかったな。君が放つ殺気が尋常でないと感じ、私もつい本気を出してしまった」
『…私こそ。刃を向けてしまってごめんなさい』



スカートの埃を払うように立ち上がって頭を下げれば、微かにその鋭い眼が優しいものに変わった気がした。



「大丈夫なのか?」
『ええ、なんとか』



心配するエースを見て、私は微笑む。年下だと言うのに彼は私より確りしてるのではないだろうか。



「それと、候補生ツキコ、候補生マキナ、候補生レム、入れ!」



クラサメ隊長か言った後、教室の扉が、バン、と開いてツキコが倒れて入ってきた。何とも言えない音を立てて、顔面から床に激突した彼女。



「わー!ツキコ、大丈夫!?」
「だからやめろと言ったんだ…」
『いひゃい…マキナ〜レム〜…』



床に伏しているツキコに駆け寄ってきたのは、あの日、ツキコと会ったときに出会った候補生の二人だった。



『…何、やってんの…』
『Σひぃ!もしかしてキ、(じゃなかった…)…ジョーカーに呆れられた!?』



起き上がって眉を潜めてる私を見てツキコがうっすらと涙を溜めて言う。仕方なく、呆れてない呆れてない、と言えば彼女は嬉しそうに立ち上がり、候補生二人と共に教壇の前に来た。



「…もういいか」
『あ、はい。大丈夫ですよ、隊長!』



溜め息を吐いたクラサメ隊長にツキコは元気良く返事をした。ツキコ、呆れられてるわよ。



「本日付で0組に配属となる、候補生ツキコとマキナとレムだ」



クラサメ隊長が三人を紹介すると、先ずはツキコが前に歩み出た。



『えと、改めまして!ツキコ・キリュウです。よろしくお願いします!』



相変わらずな彼女に0組の誰もが苦笑していた。同じ空間に同じ顔の人物がいることにはちょっとは慣れたらしい。次にマキナとレムと呼ばれた彼らが口を開く。



「マキナ・クナギリです。よろしく」
「レム・トキミヤです。よろしくお願いします」
『クナ、ギリ…?』



私はマキナのフルネームを聞いてハッとする。どこかで見たような顔、聞いたような名だとは思ったが、まさか彼が――



『イザナの、弟…?』



ポツリ、と呟いた声は誰にも届かなかった。思い出すのは後悔ばかりが残る、首都解放開戦の時のこと。



「別命あるまでは自由にしろ。諸君の成果を期待する。クリスタルの加護あれ!」



そう言ってクラサメ隊長はコートの裾を翻して、教室を出ていった。――…クリスタルの加護、ね。私はクリスタルの影響を受けないから加護もなにもあったもんじゃない。そんなことを思いながらぼーっとしてると、いつの間にかツキコが私の前に来て、にっこりと笑っていた。



『キョウコ!さっき振り!!』
『何それ。ってか相変わらずね、ツキコ』
『えー?そう?わたしはいつも通りなんだけどな!!』



私は自信有り気に笑うツキコの頭を撫でて、ぽんぽん、と何度か軽く叩いた。落ち着けとでも言うように。



『そーいえばエース』
「ん?なんだ?」



つぃ、と隣のエースに話を振るツキコ。彼女はこの十日間の間に0組のみんなと打ち解けることが出来たみたい。みんなも満更ではなさそうだから良かったのだけれど。



『エースってキョウコのこと、好きでしょ?』
『ぶっ!?』



意外な質問に思わず吹き出してしまった。なんてストレートなんだこの子は。聞かれたエースはきょとんとしてから、ふ、と微笑んだ。



「うん、好きだよ」
『エース!?』
『それって恋愛感情?』



いやいや!何聞いてんのよ!



『ちょっと、ツキコ!!』
「ちゃんと異性として好きだよ」



ボン、と何故か顔が真っ赤になる私。それを見たサイスが興味津々に私の肩に腕を回す。振り向けばにやにやと笑ってる彼女の顔。



「何だ?お前らそーゆー関係?」
『なっ!そんなんじゃないから!!わ、私たちは家族で、それ以上でもそれ以下でも、なくて…っ』



って言うかこんなこと一度も無かったし、だいたい私はエースより年上で、そもそも私、は――



「そう言えば昔からふたりは仲良かったもんな」
『セ、セブン姉さんまで何を…!?』
「あー確かに〜でも最近は一緒に歌ってるの、見てないよね〜?」
『ジャック!!』



ああもう、と机に伏して頭を悩ませてると、ふ、とエースと目が合った。いや、別に嫌いってわけじゃないし、取り敢えずなんでいきなりそんなことになったんだろうか。



『取り敢えずさ、みんな墓地行かない?』
『墓地?』



鸚鵡返しで聞き返すと、ツキコは頷いた。0組のみんなと、マキナとレムを連れて、彼女は教壇近くにあった扉から外へ出る。誰の案内も無しに裏庭へ、そして墓地へと足を運ぶツキコを見て、改めて理解する。ほんとに私たちのこれからな物語を知ってるんだ、と。



「なんだここ?」
『ここが墓地だよ』
「なんだよボチって?」



ナインとツキコが話してる中、私はキョロキョロと辺りを見回す。そして見つけた。イザナ・クナギリと言う名を。



『……』
「あ、ここ…俺の兄さんの」
『! えっと、マキナ、だっけ?』



そこに立ち尽くしていると、マキナが声を掛けてきた。兄さん、と呼んだのなら、彼は間違いなくイザナの弟だろう。



「ああ。えっと、君は…」
『キョウコよ。作戦以外の時はそう呼ばれてる』
「じゃあ、キョウコ。ほんとに君とツキコはそっくりだな。ファミリーネームが違うし、双子でもないよな?」
『違うわ。世界には自分に似た存在が三人はいる。そう考えてくれたらいいわ。私だって未だに信じられないのよ?』



ふふ、と笑って言えば彼は、そうだな、と頷いてくれた。それから少し間を置いてから、マキナは話し出す。



「君は兄さんを知ってるのか?」



私は彼を見てから、イザナの名が刻まれたお墓に目を移した。



『友達、なの』
「え?でも記憶は無いんじゃ…」
『わたしとイザナはね、この魔導院で知り合ったのよ。初めて会ったときは弟と喧嘩した、って愚痴を聞かされたわ。その弟がマキナって気付いたのはついさっきなんだけどね』



懐かしむようにマキナを見て言えば、まさか、と目を開く彼。もう一度彼が口を開こうとしたが、その前にエースが話しかけてきた。



「行こう、キョウコ。ツキコが呼んでる」
『そうね。マキナも行きましょ』
「あ、ああ…」



最後にイザナのお墓に、いつか彼に貰った押し花の栞を置いて、エースたちと私を呼ぶツキコの元へ向かう。この子に聞けば、イザナのこと、少しでもわかるだろうか。そんなことを考えながら、私たちは教室へと戻った。







(で、キョウコはどうなんだ?)
(ちょ、あからさまになによ、セブン姉さん…)
(エースの事だよ)
(!! も、もうその話はいいでしょっ!って、なんでみんな集まってんのよ!散れ!!)


[ back to top ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -