03

 





渡された制服を見てみればキョウコとお揃いのもの。少しだけ嬉しくなって、セーラー服からその制服に着替える。その間も複雑そうにキョウコがわたしを見ていたことは気付かなかった。これから何をするかも知らないわたしは、なんだかコスプレみたいだ、なんて調子のいいことを思いながら前を歩くキョウコを追う。着いた場所は人気の無い広場。そこには残党兵がいて、わたしたちを見た瞬間身構えた。



『あなた、名前は?』



凛、とした声が響いた。キョウコの問いに皇国兵が戸惑いながらも名乗ると、彼女は小さく笑った。



『あなたを殺せとの命。潔く死んでくれないかしら?』
「っ朱め…!!」



もう一度、今度は妖艶に笑うと、キョウコはわたしを振り返った。



『私は今回一切手を出さない。あなたが殺るのよ』
『え…っ』



あんな戦いの後だからそんなことを言われるなんて思っても見なくて。いや、容易に考えられたはずだ。あんな戦いの後だからこそ、だろう。



『や、ちょ、キョウコ…!』
「おおおおおおお!!」
『ひっ』



向かってくる兵に、わたしは咄嗟に武器を取り出す。しかし慣れない重さで持ち上げられず、地面に沈む鉄扇。慌てて開いて銃弾を防ぐ。



『っ、キョウコ!!』



彼女の名前を呼んでもこちらを見てくれもしない。わかってるんだ。わたしの覚悟が試されてるんだって。



『く…っ!!』



重たい鉄扇を引き摺っては開いて攻撃を防ぐ。このままじゃわたし死んじゃう…!けど、人を殺すなんてわたしには…それにこの世界では死んだ人の記憶が無くなる。多分わたしも同じ。――怖い、よ――



『…っ』



でもわたしが死ぬのも嫌だ。せめて、せめて0組のみんなを助けられるくらいには、強くなりたい。こんなところで、死ねないよ…――



『っあああああああああ!!』



自分が生き残る為にはこうするしかない。そう自分に言い聞かせて、わたしは力の限り鉄扇を振るう。直後、ザシュ、と肉に食い込む感触が武器越しに伝わって来た。ゴト、と鈍い音がしたと思ったら、目の前にさっきの皇国兵が倒れていた。



『あ、れ…』



この人、誰だっけ。わたしはハッとする。やっぱり、忘れちゃうんだ。そう思って再びその骸を見た瞬間、急に気持ち悪くなってその場に膝をつき、込み上げてきたものを吐き出した。



『げほっ!か、っは…っごほ、うえっ、う…、ごほっ!!…は、はぁ…はぁ…』



こう言うことだったんだ、記憶が無くなるって。この世界の物語を知ってるから、凄く辛かった。――それでもわたしは泣かないよ。だって決めたんだもん。この世界で生きるって。



『ツキコ』
『うん、今行くよ』



もう名も忘れた皇国兵に黙祷を捧げてから、わたしはキョウコの後を追った。



『なるほど…』
『じゃ、やってみて』



場所を変えた後、キョウコに魔法の使い方を教えてもらった。最初は出来なかったけど、少しだけコツを教えてもらったら、突き出した手のひら魔法が放たれた。



『お、おお…!キョウコっ』
『そう、ね。初めてにしては上出来』
『ありがとう!』



褒めてもらってとても嬉しかった。でも、とわたしは手のひらを見つめる。この力も人を殺す力なんだよね。ぐ、と手を握ってわたしは首を振る。何もかもがわたしには初めてで、ほんとは全部怖くて、辛くて──だけど隣にキョウコが居てくれたら大丈夫かなって、なんとなくだけど思ってるんだ。凄く近いけど、なんだか遠い存在のキョウコ。追いつけないって分かってても、わたしはキョウコについて行きたいんだ。








時刻は夜。ふ、と空を見上げれば満天の星空が瞳に映る。この空は元の世界と変わらない気がする。キラキラといろんな色に輝く星が空に瞬いていて、とても綺麗だ。そう言えばキョウコは何処に行ったんだろう、とここまで探しに来たことを思い出す。食事の後何処かに行っちゃって帰ってこなかった。知らない場所で一人だなんてちょっと、いや、かなり不安だ。もう少し探して見よう、と学院の方に行ってみる。



『…やっぱり酷いなぁ…』



短時間で片付かるわけはなく、辺りは酷い有り様だった。流石に死体なんかはなかったが、暗いこの中でも分かるくらい血のあとはベッタリと残っていた。昼間のことを思い出せば、わたしはもう無関係じゃないんだと思い知らされる。



『うー…キョウコもう戻ってんのかなぁ…』
「おい」
『うひゃあ!?』



真っ暗闇の中、声を掛けられてわたしは肩を跳ねさす。振り向けば、あ、と小さく声が零れる。月明かりに照らされて見えたのは0組のメンバーであるエイトとキングの姿。



『っあの、えっと…』
「エイト」
「キングだ。お前はツキコだったか」
『え、あっ、う、うん!』



エイトとキングに出会えたことと、名前を覚えててくれたことに嬉しくなって大きく頷いた。あれ、どうしてこんなとこに…――



「キョウコが探していた」
『あ、やっぱり?どこ行ったのかなって思って探してたの』
「マザーに呼ばれて集まってたんだ」



なるほど、と納得する。だってわたしがお風呂入ってるときにいなくなったし。メモくらい残してって欲しかったな。あ、でもこの世界の文字読めなかった。



『もしかして0組みんなが探してくれてる、とか?』
「…あとはキョウコだけだ」
『(うーん、やっぱりか)』



みんなまだわたしを警戒してるんだろうな。ちょっと悲しい。みんなと仲良くなりたいんだけどなぁ。うーん、と悩んでいると、急に寒くなって小さくくしゃみが出る。すると、大丈夫か、とエイトが声を掛けてくれて、さらに、ふわり、とキングがわたしに上着を掛けてくれた。




「夜は冷える。早く戻った方がいい」
『え、でも…』
「今日は一段と冷えるしな」



素っ気なさ、いや、不器用な中にあるさりげない優しさ。これがこの二人なんだって思った。



「……ほんと、似てるな」
『え?』



戻る途中、キングが呟いた。わたしとキョウコのことだろう。一番驚いたのは勿論わたしたちだが0組のみんなだってびっくりしていたに違いない。小さな頃からずっと一緒にいる家族とそっくりな人間と会ったのだから。



『キングやエイトたちから見たわたしはキョウコのレプリカみたいだって思われてそうだな』



笑って言えば、エイトの足が止まった。釣られてキングもわたしも足を止める。わたしは首を傾げて振り向く。



「……みんな戸惑ってるだけだ……キョウコのことは昔から知ってる。だからこそおまえを見てどう接したらいいか分からないんだよ」
『………大丈夫だよ。みんなに信用されてないってことは分かってる……でもやっぱり、みんなと仲良くなりたいからさ。わたし、頑張るよ』



今日会ったばかりだけどわたしはキョウコが好きだ。わたしの話を聞いても彼女は動揺もしなかった。寧ろわたし自信を受け入れてくれたって感じだ。まだ信用は得てないかも知れないけど。



「…そうか。気遣いは要らなかったな」
『けどエイトとキングが心配してくれたこと、凄く嬉しかったよ!もう、友達、だよね…?』



おずおずと彼らを見上げれば、きょとんとされる。あれ、わたしおかしなこと言ったかな?しかし直ぐに二人は小さく笑ってくれた。



「ああ、ツキコ」
「ま、今更だよな」
『ありがとう!エイト、キング!』



エイトとキングが笑った。それだけでまた嬉しくなるわたし。それに、こんなにわたしと話してくれたことに何だか感動した。



「キョウコが待ってる」
『あ、そうだね!じゃ、行こうっ』



この世界に来て、わたしは今、初めて正直に笑えた気がした。ずっとずっと重たいものが乗っかっていて、それがすぅと無くなったよう。もう一度、ありがとう、と言ってわたしは星空の下をエイトとキングと並んで歩き出した。







(おかえり、ツキコ)
(ただいま!キョウコ!)
(どこで見つけたの?)
(学院の方)
(あそこ、今立ち入り禁止になってるんだけど…)
(え!?ほんと!?真っ暗だったから分からなかった…)
(全く…エイト、キング、良くツキコの居場所が分かったわね)
(何となくだ)
(な、何となく……)


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