07

 



「待っていた。ずっと、君を…」
『隊長、クラサメ隊長…っ』



確りとお互いの体温を確かめ合う。離れていた時間が長いためか、隊長の全てを懐かしく感じた。ゼロは一度クラサメ隊長を失ってるから、だからどうしても隊長を助けたかったんだ。でも失って初めて感じる寂しい思い。ゼロは知ってたのに忘れていた。隊長を一人にしちゃった。



「君のいない日常があれほどまで色褪せているとは思わなかった」
『え、あの……それって…』
「…言わせるな」



寂しかった、ってことですよね。ゼロはそっと離れて隊長と目を合わす。翡翠の瞳が真っ直ぐゼロを見詰める。その時、ふ、と頭の中にエースたちが戦ってるビジョンが見えた。



『エース…!』
「ゼロ?」
『っ隊長!エースたちは…!?』
「…あいつらは――」



クラサメ隊長によればエースたちは少し前にホシシメさんに連れられて万魔殿と言う場所に向かったらしい。そしてさっきのルルサスという巨人が消え去ったと言うことはエースたちはこの戦いに勝ったってこと?



『みんな、どこ…っ』



そう思って立ち上がると、ゼロの手をクラサメ隊長が掴んだ。



『隊長…っ』
「魔導院はこっちだ」
『え、魔導院…?』



なんで、とは思ったがあたしは無意識に頷いていた。クラサメ隊長に手を引かれてゼロは走る。みんなに会いたいよ。隊長を守るためだと勝手に自分で決めてしまったことも、最後まで一緒にいられなかったことも謝りたい。



『この歌…っ』



魔導院の扉を開けると、エースの歌が聞こえてきた。この先に、0組の教室に彼らがいる。帰って来てるんだ。先ずはなんて言おう。ごめんなさい?お疲れさま?ううん――バン、と勢い良く教室に入ったゼロとクラサメ隊長。



「ゼロ……」
『あ、は…っ』



そこにはボロボロの家族たちがいて、どれだけ激しい戦いをしてきたか分かって、凄く泣きたくなった。だけどゼロはぐっと涙を堪えて笑う。



『お帰りなさい、みんな!』



精一杯の笑顔。ゼロはみんなの元へ走って一番近くにいたエースを抱き締める。



『ごめんっ、みんな…っごめん、なさい…っ』
「……謝るなよ、ゼロ」
「そうですよ。ゼロさんはこうやって戻ってきてくれたじゃないですか」
「あんたのこと、ずっと待ってたよ」
「ゼロのお陰で、隊長も生きてる…やっと0組が揃った」



お帰り、って、みんなはあたしの肩にそっと手を置いてくれる。とても暖かい。そうだ、みんなまだ生きてる。もう一度0組のみんなで笑い合いたいんだ。マキナとレムも――



『お願い、みんな…生きて…っ』
「ゼロ……」
「ゼロ、俺たちは…」
『死ぬのは、怖い……でも、自分が死ぬことよりみんながいなくなっちゃう方が怖いよ!』



止めどなく流れる涙。目の前で倒れるみんなをあたしは見たことがある。何よりも怖かった。何よりも悲しかった。



『あたしが、みんなを助けるから……諦めないで…っ』



マザーにもらった力なら、みんなの傷付いた身体もファントマも治せるはず。あたしは魔力を手のひらに集中させて、いつものように回復魔法を掛ける。でもいくらマザーの力をもらったとしてもゼロの魔力の量はそのままで。このままだと先にゼロが力尽きてしまう。



「ゼロ、お前…」
『っゼロは、みんなと一緒がいい…!みんなが救った世界なのに、みんながいなくちゃ悲しいよ!!』
「だけどこんなに魔力を使ったら――」



顔を顰めたゼロの手にクラサメ隊長の手が重ねられた。ゼロも0組のみんなも目を見開く。



「私の魔力も使え」
『たい、ちょ…っ』
「あんた…」
「ゼロの守りたいものが私の守りたいものだ。それに、お前たちがいないと張り合いがないからな」



ふ、と身体が軽くなった気がした。クラサメ隊長の魔力がゼロに注ぎ込まれてるんだ。ゼロは大丈夫だよ、とみんなを見回してから意識を集中させる。



「ゼロ……」
「ゼロ…っ」
『そんな表情(かお)しないでよ…楽しいこと考えよう!』



へらりと笑えばみんなも一緒に笑ってくれた。この先どんなことがあってもクラサメ隊長と、みんなと一緒いたい。だからあたしは頑張るよ。



『っ…』
「ゼロ!」



回復が終わると同時に、ふら、とあたしの身体が倒れ掛けた。それをクラサメ隊長が支え、みんなも囲むように駆け寄って来る。みんな、ちゃんと傷が治っていて安心した。



「ばかだな、ゼロは…」
『あは、エースは相変わらず意地悪だなぁ……』
「無茶し過ぎです」
「ほんとですよ…!」
『トレイ…デュース…ごめんね』



うん、やっぱりこうやってみんなで笑ってる方がいいよね。見上げればクラサメ隊長がなんだか笑ってる気がして少しばかり恥ずかしくなった。ゼロは誤魔化すように笑う。



『これからもみんな一緒だねっ!前みたいに一緒に暮らしたりさ!』
「…隊長はそれでいいのか?」
『へ?』



エースはクラサメ隊長を見てそう言った。訳が分からないゼロは二人を交互に見て、何が?、と首を傾げる。


「…ゼロ」
『は、ひぶぶっ!!』



急にクラサメ隊長に抱き上げられて変な声が出た。ちょ、みんなの前で何してんすかクラサメ隊長。



『たたたた隊長!?ちょ、みんなも見ないでー!!』
「真っ赤だな、ゼロ」
「林檎みてぇ」
「あっはは!ゼロ不細工〜」
『なんだとー!?そn ぐえっ!?』



抱き上げられたままエースたちを怒鳴ろうとしたら無理矢理顔をクラサメ隊長の方に向けられた。あの、めっさ痛いんですけど。ゴキっていいましたよ、ゴキって。



「ゼロ」
『ち、近いです隊長…っ』



恥ずかしくて、でも幸せすぎて死にそうなんですけど。自分からだったら全然オッケーなんだけどやばいこれは心臓もたない。



「じゃあ僕たちはお邪魔みたいだから…」
『へっ!?みんな待って!!』
「じゃ〜ね〜」



え、あ、ちょ、まっ…――引き留める暇も無くみんなは教室から出ていった。居たたまれなくなったゼロはギュッと目を瞑って顔を反らす。



「私を見ろ、ゼロ」
『あ、ぅ…』



ゼロが閉じていた目をそっと開けてクラサメ隊長を見ると、いつの間にか隊長はマスクを外していてなんなのもうゼロを萌え死にさせる気ですか。



『ひぃん…隊長大好きですぅ』
「残念だったな。私は愛している」
『! っゼロも愛してます』
「知っている」
『あ、ぅ…』



隊長のばかぁ…、なんて頬を膨らませて言えば隊長が小さく笑った。それだけでゼロの心拍数は急上昇。



「ゼロ」
『はひぃ…何ですかぁ…』
「これからは毎日私の傍にいろ」
『は………へ!?』



蕩けかけた意識をハッとさせてゼロはクラサメ隊長を見直す。え?え?えっ?つまりどういうこと!?



「君が私を守ってくれたように、私もこの世の何ものからも君を守ろう」
『え、っえ?』
「私の元へ来い」



つまり、あの、その――



『プ、プロポーズ、です…か?』
「好きなように受け取れ」



心臓爆発寸前。ドクンドクンと心臓が激しく鼓動している。このまま倒れちゃいそうだったけとなんとか持ちこたえて、あたしはクラサメ隊長の首に腕を回した。きっと今のあたしの顔は今まで以上に真っ赤だ。うん、そうに違いない。



『っ隊長…』
「クラサメだ」
『!! あ、ば…っばばば!!』



ひぃ!それは名前で呼べってことですかそうなんですね!?死刑宣告ですか!!ゼロに死ねと!?そそそそそんないきなり言えるわけ…!!



「ゼロ」
『ぁ、ぅ…っあの、クッ…クラサメ、さん、でいい…ですか…?』



呼び捨てなんて出きるわけないわ!!もう失神寸前だよ!!もう限界で声裏返ってるし!!やばい死にそう誰か助けてヘルプミー!!!!ああっクラサメ隊…クラサメさんの溜め息!!ゼロはその吐く息になりたい!そんなことを脳内で巡らせていたら察しられたのか睨まれましたはいごめんなさい。



「及第点だな」
『あうぅ…クラサメさん意地悪ですぅ……』
「ゼロにだけだ」
『…あたしの方からクラサメさんのこと好きになってあんなに追い回してたのに……なんでこうなってんですか…っ』
「さぁな」



そう言って笑った後、優しいキスをくれた。



『ゼロはクラサメさんをずっと、愛しています』
「ああ。私もこの先ずっと、君だけを愛している」



愛する人がいて、大切な家族がいて、友人がいて、今度は戦争の無い、平和な毎日がこれから始まるんだって思ったら、幸せで嬉しくて堪らなくなった。クリスタルが無くなって、魔法や特化した機械とかが使えなくなっても、それでもみんな前に進んだ。この世界のみんなが笑って暮らせる、そんな場所になるように――








クラサメ隊長!愛してる!


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