04

 


「はい。終わりよ、ゼロ」
『マザーありがと〜!』



何故か定期検診の日でもないのにマザーに呼ばれ、ゼロは今マザーの部屋にいる。診察が終わって上着を着ると、マザーに呼ばれてゼロは振り向く。



「最近おかしなことはない?」
『? おかしなこと…うーん…』



あ、とゼロは思い出す。最近夢に見るビジョンのこと。少し悲しくなって眉を潜める。



「あら、あなたのそんな表情(かお)みたのは久しぶりね」
『うぇっ!?そ、そうかなぁ?』
「ええ」



ふふ、と笑うマザーは凄く美人だ。でも直ぐにマザーは真剣な表情になり、いつもの煙管を吹かす。



「ゼロ。あなたはゼロなの」
『え、あ…うん。そりゃあたしの名前だし…?』
「ゼロは何も迷うことはないのよ。好きに生きればいいの。だってあなたはもう自分の道を歩んでいるのだから」
『? どうして、そんな…』
「ゼロの力ならきっと輪廻の輪から抜け出せる。あなたは歯車にはならないで頂戴」
『え?歯車ってなぁに…?』



それからまた笑うマザー。だからあたしはそれ以上聞けなかったんだ。いつものようにゼロも笑って、マザーの部屋から出ていった。



『マザーの言ってたこと、気になっちゃうなぁ』



時間的にもう誰もいないテラスでゼロは海を眺めながらそう呟いた。さらりと海風で揺れる自分の髪が視界の端に映る。



『…クラサメ隊長…』



ずっと見る夢。もう何回も見てるのに辛くて悲しい。見たことがない光景。もしかしてこれから起きることなんだろうか。だったら…あたしは未来を変えたい。



「ゼロか?」
『!』



急に背後から声を掛けられ、ビックリして振り向けばそこにはクラサメ隊長の姿。



『あ、隊長…』
「…なんだ。いつもの元気はどうした」
『えーゼロは元気ですよぅ』



へらり、と笑ってゼロは足元に寄ってきたべりたんを抱き上げる。すると突然クラサメ隊長がゼロの頬に手を添えた。当たり前に心臓が爆発しそう。このままキスでもされそうな雰囲気で。ゼロにいつものテンションが戻ってきた。



『やぁん!隊長大胆っ!!このままちゅーしちゃいます!?ゼロは大歓迎ですよぅ!!』
「ふっ、やはりお前はそっちの方がいい」
『! クラサメ、隊長…?』



クラサメ隊長の言葉が凄く嬉しく思えた。みんなに、家族に言われるよりも、ずっとずっと。



『な…何言ってるんですかぁ!!ゼロはいつも通りですってば!』



ね、べりたん!とべりたんに笑顔を向ければ包丁を突きつけられました。何ゆえ。ってか包丁無闇に突きつけるの止めろし。もう少しでほっぺたにブスリだよ。



「無理矢理笑うなってことだ、ゼロ」
『!! そんな、こと…』



眉を下げれば腕の中のべりたんがゼロの手をパシパシと叩く。もしかしてほんとにべりたんにも分かっちゃってるのかな。



『ねぇ。隊長は朱雀と仲間と大切な人、どれを選びますか?』
「…さぁな」
『あははっどこまでも隊長らしいですね〜』



くる、と振り返ってゼロは再び海を眺める。もうすっかり日も落ちてしまった。空には金色の月が輝いている。



『ゼロは隊長が一番です』「…またお前は…」
『多分、そうなんです。きっとマザーよりも家族よりも、ゼロはクラサメ隊長を選ぶと思う』



だってゼロを変えたのは隊長だから。そう言えばクラサメ隊長は深いため息を吐いた。



「勝手にお前が私に惚れたんだろう。私は特別何もしていない」
『クラサメ隊長がいたからですよぅ。隊長を大好きになったから今のゼロが在るんです』
「全く…変わるのはいいが私を巻き込むな」
『やだ隊長!愛ですよ!!可愛いゼロからの愛ですー!』



キャッ!とべりたんを頬擦りしながら言えばクラサメ隊長はゼロの肩を掴んで自分の方へ向かせた。



『クラサメ隊長?』
「お前は笑っていろ。そう言ったのを覚えているか?」
『は、はい…』



確かクラサメ隊長とテラスに来たときに気分が悪くなって、その後に言われたと記憶している。



「何故かゼロの暗い表情を見ていると虚しくなるんだ。初めてその表情をみたとき、守れたら、と…そう思うようになった」
『え、えっ?あの、いきなりなんです、か…?』



いつも以上に真剣で、隊長のエメラルドの瞳が真っ直ぐにゼロを映している。



「毎日毎日、飽きもせずに私に付きまとうお前が最初は鬱陶しかった」
『おぶぶ!!』



ハッキリ言われて軽くダメージを受ける。隊長鬱陶しかったのね。そっか鬱陶し…まあそれでもめげないけど!!



「だが」
『ふえ?』



カチャ、と隊長はマスクを外す。初めて見る素顔に再び胸が高鳴る。一番に目に入るのは刻まれた火傷の痕。かつて四天王と呼ばれていた時代、その仲間を失った際に付けられたものなのだろう。ドキドキ、ドキドキと同じ速さで鼓動する心臓。心なしか顔も熱い。



「決して突き放せなかった」
『…投げ飛ばしたり、肘打ちしたのに、ですか?』
「…それはただの条件反射だ」



ゼロは小さく笑う。そんなゼロの頬にクラサメ隊長はそっと手を添えた。



「熱いな」
『クラサメ隊長のせいですよ〜!いきなりマスク外すとか反則ですぅ』



だって思ってた以上にめっちゃカッコイイんだもん。ゼロなんて相手にされないのがよくわかった瞬間でもあった。でも諦められないのがゼロである。



『責任、取ってくれますか〜?…なーんて』



ね。と言う前に言葉が発せなくなった。目の前にはクラサメ隊長の長い睫毛。唇には柔らかい感触。直ぐに理解したけど、ああ、これはきっと夢なんだ、とゼロは脳内でそう言い聞かせた。べりたん。夢だったら包丁でぶっ刺して目を覚まさせて。夢なら痛くないし大丈夫大丈夫。そんなことをぐるぐるさせてるうちに、クラサメ隊長はゼロから離れた。



『……』



べりたんお願い刺して。懇願するように腕に抱いたべりたんを見れば、小さな手で目を塞いでいた。



『べり、たん…?』



うそん、とべりたんを呼べば、クラサメ隊長にテラスの柵に追い詰められるゼロ。え?えっ?



「私より先にトンベリを呼ぶとはどういう了見だゼロ」
『ちょちょちょちょちょっと待ってください!!えっ!?何!?夢じゃないの!?ゼロ爆発しそうなんですけど!!』



つまりどういうこと!?よくわかんない!!ゼロこう言うことに関してはバカだからよくわからないんだけど!



「爆発する前に私が凍らせてやろう」
『あっれー!?なんでそうなっちゃうんですか!?』



一気にいつもの調子に戻ってしまった。なんて言うか、ゼロ自身もこっちの方がいいかも知れない。けど気になってることには違いなくて。



『ってかなんであんなこと…』
「あんなこととはこのことか?」



そう言ったクラサメ隊長は間を入れず、今度は触れるだけのキスをする。あの、ゼロ、本気で爆発しそうなんですけど。もう凍らされも良いよ。



「愛してる」
『っえ…?』
「聞き返すな」



ああ、こんな幸せなことがあっていいのだろうか。嬉しくて嬉しくて堪らない。



『もう一度…お願い、します』



顔を真っ赤にして言えば、クラサメ隊長は一度ゼロから目を反らしてから視線を戻す。



「愛している、ゼロ」
『っゼロも、隊長を愛しています…!』



クラサメ隊長の言葉に、ゼロはにっこりと笑ってそう言った。



「ああ、知っている」



べりたんはぴょんとゼロの腕の中から飛び出してゼロの足元に降り立つ。そのままべりたんはゼロの足にしがみついた。まるでべりたんが認めてくれてる見たいで嬉しい。



『(隊長。隊長はゼロが守りますから)』



ぐい、と腰を惹かれてクラサメ隊長と密着する。ゼロは心にそう決めて隊長の首に腕を回した。



『…クラサメ隊長ラブメーターが破裂しそうです』
「こんなときまでゼロはゼロだな」



そしてどちらからともなくキスをした。なんで突然キスされて、愛してると言われたのか分かんない。クラサメ隊長にとっては鬱陶しい子供を大人しくさせるためかもしれないけど…ううん、クラサメ隊長が嘘つくはずないもん。これは、嘘じゃないんだよね。



『えへへ〜なんか先生と生徒の禁断の恋みたいで燃えますねっ』
「…はぁ」
『隊長〜溜め息なんて幸せが逃げてしまいますよぅ!あっべりたんまで溜め息!ダメだよべりたーん』



しゃがみこんでツンツンとべりたんの頬をつつけばその指先を両手で掴まれてキスされた。おおふ、なにそれめっちゃ可愛いよ。最初の頃は懐いてくれなかったのになぁ。



『べりたんも愛してるよー!』
「…♪」



おふっ!べりたん嬉しそう!?なんとなく解っちゃうよ!ゼロは思わずぎゅーとべりたんを抱き締めた。



『隊長隊長!折角べりたんが懐いてくれましたし暫く貸してくださいっ』
「却下だ。…ゼロが私の部屋に来ればいいだろう」
『!! たっ隊長…そんな!ゼロはまだ16歳ですって!きゃーっ隊長ってば破廉恥ー!おぶっ!?』



調子に乗りすぎて顎に肘打ちを食らわされました。大丈夫、これは愛の鉄拳だから。ってか空気読まなくてごめんなさい。まあ読めないんだけど!



「そろそろ帰るぞ」
『はいはーい!あっクラサメ隊長、手ぇ繋いでいいですかー!?』



まあ断られることは分かってるんだけどね!なんて思ってるとべりたんを抱いている方と逆の手をクラサメ隊長は握ってくれた。



「魔導院を出るまでだ」
『……クラサメ隊長、ゼロ死にそうです…』
「このくらいで死ぬな」



でもホントにホントに今まででないくらい幸せなんだ。もうこれ以上の幸せは要らない。こうやって隊長の隣に立てるだけで死ぬほど嬉しいよ。だからゼロは隊長を守ります。







(おいゼロ)
(はい、なんですかーっ)
(お前、言いふらしたのか)
(勿論ですよぅ!ちゃーんとカヅサさんやエミナさんにも言っときました!)
(っお陰でロリコンだの変態だのと散々言われたのだが)
(えっクラサメ隊長ロリコンで変態なんですか!?)
(違う!)
(やん!怒った隊長もス・テ・キ♪)
(っ、……はぁ…)


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