12

 

先に進むに連れて不安が募る。姉さんみたいに邪魔なクリスタルになった樹を叩き壊せる程の力はないし、ホープ君みたいに何かを目指してるわけでもない。わたしは、どうしたいのかな。あの時もそうだった…――



「ルシになったからこのバカと結婚だ?話が通ってない。つくならまともな嘘にしろ。それに――ほんとにおまえがルシならば始末するのが私の仕事だ」
『ッ姉さん!』
「お姉ちゃん…!」



ライト姉さんの誕生日の前日、セラ姉さんがスノウさんにプロポーズを受けたことを話された。それを聞いたライト姉さんは眉を潜めて静かに怒る。



「馬鹿馬鹿しい。最低の誕生日だ」
「っ…」
「おい!セラ!」
『セラ姉さん…!』



泣きながらセラ姉さんは家を飛び出していった。それを追いかけようとしたらライト姉さんに止められてしまう。



「なんで信じてやらないんだ!」
「誰が信じる。偶然ルシにされてそれで結婚だと?」
「義姉さん!」
「誰が義姉さんだ。寝言は寝て言え」



おろおろしながら二人を見ることしか出来ずにいた。



「セラをひとりにしたいのか」



そのスノウさんの言葉に姉さんは答えなかった。



「わかった…セラは――俺が守る!」



セラ姉さん嘘を吐く人じゃない。でもライト姉さんはスノウさんのことを快く思ってなかった。それもあって信じられなかったのだろう。その後のニュースで下界のファルシのことを知った時にはもう遅かったんだ。



「この人たちって――」



とある場所で人が倒れているのを見つけた。運がなかったな、とライト姉さんは目を細める。



「ルシを始末して手柄を立てたかったんだろう」
『逆にここの魔物たちにやられたんだね…』「これじゃ可哀想です」
「同情はよせ!」



彼らに近付こうとしたホープくんは姉さんに押しやられる。わたしは慌てて彼を支えた。



「甘い考えは捨てろ。生き延びたけば戸惑うことを自分に許すな」



そこまで言って姉さんはハッとする。いきなりは無理か、と呟いて何かを思いついた後、ホープくんの前に屈み込む。



「作戦だ≠チて考えろ。最優先の目標だけ決めて、後は目もくれるな。心は止めて体で動け」



つまり自分の心に嘘を吐けってことなんだろう。少しでも弱い心があればそこで終りだ。だけど、それでいいのだろうか。やはり姉さんは何かに焦っているように見える。



「迷って立ち止まったら絶望に追い付かれる」
『ライト姉さん…』
「…作戦ですね。そうすれば迷わないんですね」



ホープくんはゆっくりと立ち上がって小さく呟く。どうしよう…ホープくんも遠くに言っちゃう気がして、怖くて、声が出なかった。



「ノラ作戦 そういうことにします」
「ノラ?」
「母さんの名前です」



だからあの時、ホープくんは怒ったんだ。まるで自分の母親の名を馬鹿にされたようだったから。



「…復讐か」
「…わかってるんです。あいつに復讐したって、母さんは…帰ってこないし」



わたしは背を向ける彼の名を呼んだ。



「っわかってますけど!」
『……』
「……ッごめんじゃ済まないんですよ!」


悲しみと、憎しみで溢れるホープくんの表情。今にも流れ落ちそうな涙。



「殺したのはスノウじゃない。聖府だ」
「あいつを庇うんですか!?」
「事実だ」



確かに姉さんの言うことは間違ってはいない。ノラさんが亡くなった元凶はパージをした聖府なのだから。



「だったら――」



ホープくんはライト姉さんのナイフを手に取り、刃をじっと見つめる。



「聖府とも戦いますよ。ライトさんとアイさんと一緒に生き延びて」



踵を返して先を行こうとするホープくん。わたしはそんな彼の服をきゅっと摘まんで引き留めた。



「アイ、さん…」
『……どっかに、行っちゃわないで……』
「え…」
『わたし…怖いよ、ホープくん…っ』



復讐なんて怖いこと言わないで。ライト姉さん見たいに先に行かないで。今度こそ独りになっちゃう。



「なら、アイさんも僕と一緒に――」
『え……っ?』
「あいつがいたから…全部、あいつのせいなんだ――」



この選択が違っていたら、なんて今のいっぱいいっぱいのわたしには考えられなくて、気持ちが決められないまま、その手をとってしまった。



『きゃあ!』



そのまま先に進むと突然巨大な魔物が襲ってきた。後退るわたしを他所に、ホープくんは武器を構える。



「作戦だ…これはノラ作戦なんだ…どけーっ!」
『ホープくん!』
「行くぞ、アイリィ」
『っ!』



ライト姉さんの指示でわたしは後方支援に回った。回復術や魔法を駆使して邪魔にならないように二人の援護をする。



『っこいつ弱点が変わった!』
「見極めて弱点を付け!」
『や、やってみる!』



若干魔物の色が変わっている。今は僅かに赤い。なら――



『ブリザド=I』



わたしの放った魔法は見事に魔物の弱点であり、その隙にライト姉さんとホープくんが攻撃を叩き込む。



「! アイさん!」
『!? あぐっ!』



ホープくんに名前を呼ばれてハッとすれば、魔物の腕がすぐ近くまで迫ってきていて、わたしはそのまま後ろへ吹っ飛ばされた。



「無事か!?」
『っなん、とか…!』
「なら休まず行くぞ!」



ライト姉さんに応えると、わたしはナイフを構え直す。その後もなんとか攻防を繰り返し、魔物を倒すことが出来た。



「ノラ作戦、第一段階成功」
「……上出来だ」



少し顔つきが変わったような気がする。やっぱりライト姉さんのおかげなんだろうか。でもこれが正しいとは素直に思えなかった――






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