10

 
はぁ、と息を吐いてわたしは岩に背を預ける。ここまで戦い続けで結構疲れてきた。ホープ君もしんどそうで、深く肩で息をしている。そんなわたしたちを見て、ここで休む、とライト姉さんが言ってくれた。



「様子を見てくる。休んでいろ」



そう言う姉さんはちょっとだけいつもの姉さんに戻った気がする。姉さんの背を見送ったわたしは糸が切れたようにズルズルとその場に座り込んだ。



「アイさん!」
『あ…大丈夫だよ…』



そうは言うがやはり人と戦うにはそれなりの勇気がいる。それが無いためか、僅かに手先が震えていて、表情も固い。怖くても、辛くても、わたしは足手纏いにはなりたくないから、戦わなくちゃ。



『ホープ君…隣、おいで』
「え……あ、はい…」



ぽんぽん、と隣を叩けばホープ君はわたしに並ぶ様に座り込む。



『あのね、ホープ君はライト姉さんやわたしのことどう思ってる?』



膝を抱えてわたしは呟く。ずっと気になっていたこと。だって巻き込んだのはわたしたち。今でもセラ姉さんを助けに行かなかったら、なんて思ってしまうけど、でもそうじゃなかったらわたしはこれからも殻に閉じ籠ったままだったから。



「…ライトさんは…強くてかっこ良くて……僕の憧れです。尊敬出来る人、です…」
『…そっか』



わたしもそうだよ、と小さく笑う。物心ついた頃から姉さんの背中ばかり追いかけていたから。いや、今もか。



「っアイさんは!!……アイさんは…その……優しくて…でも自分には厳しくて……そんなアイさんは……えと……凄く、可愛い…です」



最後の言葉は小さくて聞こえなかった。今までの疲れが一気に襲ってきて、わたしは話の途中でホープ君に身体を預けて意識を飛ばしていた。



「え、ちょ、アイさん!?……も、もう、僕の気持ちも考えてくださいよ…」



――ホープの言葉は誰にも届かないまま、風によって掻き消された。やがて戻ってきたライトニングは寄り添って寝ている二人を見て固まったが、仕方なく息を吐いて彼女たちの向かいに座り込んだ。



「母さん…」
「…はっ……誰が、母さんだ」



――寝言で聞いた言葉に微笑むが次に聞こえた名前にライトニングはただただ口を閉ざした。



「ん…アイ、さん……」
「……」








あの日、わたしは一人で花火を見ていた。願いが叶う花火――そっと心に願いを浮かべて、ゆっくりと目を閉じる。すると一斉に辺りの騒音が鮮明になり、たくさんの人の声が耳に届く。



「綺麗ー!」
「凄い凄ーい!」
「おお!でかいなぁ」
「お花みたいだね!」



でも途端に思うの。出来損ないのわたしは一人なんだって。



「ライトニング!」
「明日は任務なんだって?」
「お疲れ、ライトニング」

「よう、セラ」
「セラちゃん!」
「セラ!今日はね――」



ライト姉さんの周りにも、セラ姉さんの周りにも、人はたくさん集まった。わたしだけなんだ。姉さんたちみたいに完璧じゃないから、わたしは――



『願いが叶う花火……そうだなぁ…ライト姉さんとセラ姉さんと、ずっとずっと、一緒に……あ、これじゃ今までと一緒か…じゃあ――』



じっと花火を見詰めてわたしは願う。もう悲しい思いはしたくないから、だからわたしは強くなりたい。どうしようもないくらいドジでバカだけど…それでも守りたいんだ。



「――さん、アイさん」
『ん……?』



声を掛けられてわたしは目を覚ます。優しいテノールの声が妙に心地いい。そんなことを思いながらふと顔を横にずらせば整った綺麗な顔が見え、わたしは意識をハッキリさせる。



『…ホープ、君…?』
「はい…そうです、けど…」
『ち…ちかっ、近いぃいいっ!』
「ちょ、うわっ!?」



思わず、ドン、と突き飛ばしてしまって、わたしは慌ててホープ君に謝る。



『ごごごごめんっ!』
「い、いいですよ、別に…」
『ホ、ホープ君…』



優しく笑う彼に安心するが、やはり起きて早々突き飛ばすなんて申し訳なく思う。しかも肩を借りてたみたいだし……うう、だってホープ君見たいに、その…綺麗な顔の男の子が目の前にいたら恥ずかしいじゃん。



「大丈夫ですか…?」
『う、ん…』



俯いていた顔を上げると、バチッ、と目が合ってわたしは咄嗟に彼に背を向ける。



「アイさん?」
『な、何でもないっ』



ドキドキと鼓動が早くて何だか顔も熱い。こんなこと今までなくて、変わった風邪かな、なんて思ってたら不意にわたしたちに影が掛かった。見上げると何故か機嫌が悪そうなライト姉さんの姿が。



『ラ、ライト姉さん…?』
「起きたなら行くぞ」
『え、ちょっライト姉さん!?っホープ君行こう!』
「は、はい!」



わたしはホープ君の手を取って、先に行くライト姉さんを急いで追い掛ける。ってかなんで機嫌悪いの。またわたし何かしたかな…以前にも何回かあったような……どうしよう。不安に思いながらも、でもこんなとこも姉さんだ、と笑ってついて行った。






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