08

 



二人の背に隠れながら進むこと数十分。ライト姉さんは兎も角、ホープ君は疲れきっている。そんな中、先に反り立つ壁があり先に進めないと物語る。



「行き止まりか…回り道しなきゃ…こんなの登れるわけないし…」



辺りを見回すがここを登る以外は無さそうだ。姉さんに続いて上を見上げる。うん、わたしには無理そうだ。ふぅ、と近くの機械に背を預ける。



「このルートで大丈夫なんですよね?ライトニングさんもアイさんもこのへん詳しいんですか?」
「軍の任務で何度か来ている」
『わたしは…一回だけ』



でもライト姉さんと違ってかなり記憶は曖昧だ。だからライト姉さんについていくしかない。



「任務って……アイさんには聞きましたけど…パージじゃないですよね」
「パージの主導はPSICOMだ」
『え、きゃっ』



言いながらライト姉さんはわたしを軽々片手で抱える。慌てて落ちないように姉さんの首にしがみつくわたし。ってかライト姉さん力持ち…。



「軍の組織はふたつにわかれている。聖府直属の公安情報指令部PSICOMと――その他大勢の警備軍。私たちは警備軍でボーダムの連隊にいた」



近くの段差を登った所で姉さんは振り返る。



「待ってください。パージに関係ないのになんであの場所に?」
「乗り込んだ」
『お、同じく…』



あの日、今月の13日。パージが始まった。ライト姉さんはセラ姉さんを助けるために列車に乗り込んだ。勿論待ってろといわれたのだがいてもたってもいられなくなったわたしは気が付いたらライト姉さんを追った。んだけど、列車を間違えたみたいで姉さんとは会えなかったというドジを踏んだ。ほんと情けない。



「セラを閉じ込めた異跡が下界に運ばれる前に救い出す必要があった。パージ列車に乗り込めば救う機会があると思った。まさかアイリィまで来るとは思わなかったが」
『わたしもセラ姉さんを助けたかったの…じっとなんてしてられなかった…』



その時はどうしてか身体が動いてくれた。だけど今は全くその勇気がない。



「セラさんを助けるために、自分から……すごいですね。僕には絶対できないです」
「できるできないの問題じゃない。やるしかなければ、やるだけだ」



姉さんのその言葉が酷く胸を突く。分かってるはずなのにな。



「強いから、そんなこと言えるんですよ」



ホープ君の言葉に溜め息を吐いたライト姉さんは、ちゃんと捕まっていろ、とわたしに告げた刹那、そのまま壊れた部分から突き出てる鉄骨を上手く伝って登っていく。



『ラ、ライト姉さんっ!ホープ君が…まだ…っ』
「ついてこれないならそれまでだ」
『それだったら…わたしだって』
「言ったろ。お前は私が守ると」



これでいいんだろうか。…ううん、違う気がする。そりゃ戦うのは凄く怖いよ。怪我するのも凄く痛い。だけど怯えて背中に隠れて、誰かに守ってもらうのはやっぱり、違うよ。だからちょっとずつでも…一歩でも前に進まないと――



『姉さん』
「なんだ?」



ストン、と地面に下ろされると、わたしはナイフを取り出す。姉さんに何言われるか分からないけど、決めたんだ。



『わたしと勝負して』
「何を…」
『わ、わたしも戦いたい…ライト姉さんたちの役に立ちたい…!でもきっと、姉さんをちょっとでも押せないと足手纏いって分かってるから、だから…わたしを試して欲しい…』



自分で震えてるのが分かる。姉さんは強い。一番近くで見てきたわたしがよく知ってる。勝ちたいとは言わない。ちょっとだけでも傷を付けられたら、それでいい。不本意だけどそうでもしないと姉さんは戦わせてくれないだろう。



『お願いします…!!』
「……分かった。だが手加減はしない。私が納得出来ないようならお前は今まで通り私に守られてろ」
『うん、ありがとう…!』



姉さんとわたしは各々武器を構える。ライト姉さんは近距離、わたしは遠距離攻撃。考えなくてもわたしが不利だ。距離を詰められたらこんな小さなナイフじゃ止められない。その時は…。



「行くぞ…!」
『はい!』



わたしの言葉が合図になってライト姉さんが飛び出す。それを目掛けてわたしはナイフを投げる。しかしそれは呆気なく弾かれ宙を舞う。わたしはただここまで何もせず着いてきたわけじゃない。何度も戦おうって思った。みんなの力になりたいって思ってた。だから――



『まだまだっ!』
「!」



くいっ、と手に持っていたワイヤーを引っ張るとライト姉さんへとナイフが目標を戻す。それからもう二撃攻撃を放つが、姉さんはエリアブラストで全てを撃ち落とす。



『くっ!』



次の一手を繰り出す前に、一気に距離を詰めてくる姉さん。飛び退くことも出来ず、ガッ、と胸元を掴まれ、地面に押し倒される。喉元に突き付けられた刃がギラリと光った。



「お前は弱いんだ、アイリィ」
『分かってるよ!!それでも…っそれでも、わたしは…!!』



両手をライト姉さんの腹部へ翳し、わたしはエアロを放った。その衝撃で武器を落とし、咳き込んだ姉さんの首元にナイフを当てた。



『強くなりたい…!誰かを守れるくらいに、強くなりたいんだよ、ライト姉さん…っ』
「アイリィ……」



泣くのをぐっと堪えてわたしは言う。真っ直ぐライト姉さんを見ていると、やがて一つ溜め息を吐いてわたしの上から退いた。



「…分かった。好きにすればいい」
『! 姉さん…!!』
「だが手合わせと実践は違う。無理だと分かったら次からは戦わせないからな」
『うん…!わたし頑張るから!』



笑顔でライト姉さんの腕にしがみつく。やっぱり姉さんは強くて優しい。だからわたしは姉さんのようになりたいんだ。








それからは姉さんと一緒に戦いながら先を進んでいた。ホープ君たちの心配はするが口には出さない。暫く行ったところで、少し辺りを見てくる、とライト姉さんは凄い跳躍力で近くの瓦礫の上に登って行ってしまった。勿論同じことを出来るわけもなく、わたしはその場で辺りを気にしながら姉さんの帰りを待っていた。



「アイさん!!」
『! ホープ君!?』



そんな中、ホープ君がおじ様とヴァニラちゃんと一緒に追い付いてきた。走って来たホープ君に、ガバッ、と抱き付かれてバランスを崩すも、なんとか留まる。



「無事で良かったです!」
『…ホープ君…』



ほんとに心配してくれてたってことが良く分かった。大丈夫だよ、と笑えばホープ君も笑顔になってくれる。



「ライトニングさんは…?」
『もう帰ってくると…あ』



離れたホープ君が聞いてくると、タイミング良くライト姉さんが帰って来た。丁度おじ様とヴァニラちゃんもここまでやって来てわたしとライト姉さんを交互に見やる。ライト姉さんは彼らを一瞥してから、行くぞ、とわたしの手を掴む。



『わっ、姉さーん!』
「素直じゃねえな」



そうだね、素直じゃないね、姉さん。きっとみんなが見えたから戻って来たんだと思う。何だかんだ言ってライト姉さんは優しいから。



『あ、姉さん…あれ…』



さっきの場所から進み、少し広い場所に出たとき、わたしたちの前にあった機械の山が突然動き出した。



「なんだ!?」
「下界の兵器だ」
「手強い…よなあ?」



おじ様の言葉に武器を手にしながら、見ての通りな、とライト姉さんは戦闘体制に入る。わたしたちもそれに続いて武器を構えた。



「嬢ちゃんは下がってな!」
『いいえ、わたしも戦います!』
「アイさん!?」
『大丈夫。今度はわたしが守るから』



チャ、とナイフを持って敵に向き直って、わたしはライト姉さんに続いた。全員で協力しながら何度か兵器に攻撃を当てた時、いきなり兵器が砲弾を撃って来て、瞬時に反応したわたしたちは左右に飛び退く。が、衝撃で足元が崩れ、そのまま全員落下していった。



「ムチャクチャしやがる……大丈夫か?」
「なんとか…」
『いたた……』
「来るぞ」



しかし直ぐに立ち上がって、追ってきた敵と向き合う。今度こそ、とわたしが投げたナイフが機械の隙間にぶっ刺さり、兵器の動きを止める。その隙を見逃さずにライト姉さんたちがトドメを刺した。何とかこの場は切り抜けられたみたいだ。



「下界にゃあこんなのが山ほどいるんだろ?」
「さあな。軍でも下界の情報は極秘扱いだ。現場の兵士は無知同然さ」
「らしいな…敵を知らねえで戦えるのか?」
「敵は敵だ」
「シンプルなこって」
「迷わなくて済む」



そんな言葉に、ホープ君がわたしの隣に並んでライト姉さんを見やる。



「……迷わなければ、戦えますか?」
「だから生き延びてる」



ふ、とホープ君を見るとその横顔は凄く真剣な表情をしていた。どうかした?と声を掛ければ、優しく手を握られる。不意にもときめいたわたし。でも一度も目を合わせてくれず、ただただホープ君に引かれるがまま、歩を進めた。






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