マーガレットの涙 | ナノ



「…おい」


朝、布団を綺麗に整えていたら、後ろから声をかけられた。


「ちょっと、なに勝手に入ってるの」
「うるせえよ」


狩屋マサキ。同じ雷門中に通うお日さま園の住人。歳は一つ下だけど、私たちくらいの年頃になると結構みんなどこかの家に引き取られてしまうから、貴重な友達だ。


「お前、最近学校行ってないだろ」


マサキの言葉に、眉を潜める。


「…マサキには関係無いでしょ」
「まあな」


相変わらずの偉そうな態度が癪に触る。軽く睨み付けてやった。


「…で、それが何」
「最近神童センパイとか霧野センパイがよく、お前の話してるんだよなぁ」
「はぁ?」


何なの、何であいつが。神童君はまだ分かる。クラスの学級委員だし、それなりに仲良いし。でも、何でそれに霧野君が絡んで来るの。


「霧野センパイもお前に何か言いたい事あったみたいだし」


奥歯をぎりぎりと噛み締める私の様子を見てか、マサキは楽しそうにニヤニヤと笑う。


「ま、あんまり友達に心配かけない方が良いぜ?ねーちゃん」

「な……っ!」


心配って何よ!
そりゃ水鳥ちゃんとか茜ちゃんとか、あと神童君は心配してくれるかもしれないけど。霧野君に心配なんかされる筋合い無いっつーの馬鹿!

部屋を出て行こうとするマサキの背中を見つめる視線にその意を込めて睨み付けたら、マサキは扉のドアノブに手をかけて、立ち止まる。

振り返ったマサキの表情が妙に真剣で、不安になった。


「霧野センパイはともかく、神童センパイとか、あと倉間センパイとかも心配してるし…とにかくみんなに心配かけてんじゃねーぞ」


最後にそう言い残して、マサキは部屋から出て行った。

そうか、倉間君たちも…。そう考えると、一気に申し訳なさが込み上げて来た。色々な人に対して。


「……学校、行かなきゃなぁ…」


その場に倒れ込むと、綺麗に畳まれてあった布団はまた、崩れた。



(130527)