マーガレットの涙 | ナノ
携帯のブザー音で目が覚める。画面を確認すると、発信元は水鳥ちゃん。茜ちゃんじゃなくて水鳥ちゃんからなんて珍しい。てっきりあの子携帯無くしたと思ってた。
「…もしもし」 『よぉ、』
そっけないけど優しい声。水鳥ちゃんのものだ。
「どうしたの?」 『いや、様子が気になっただけだ』
「…そう」
水鳥ちゃんの優しい気遣いに、小さく笑いを漏らす。
『ん、どうかしたか?』 「…ううん、何でもない」
私の答えに、水鳥ちゃんはふーん、とだけ返して、また話し始めた。
『明日、学校来れるか?』 「……え、」
思っても見なかった言葉に、軽く固まる。
「、あの」 『あ、いや!無理に来なくて良いんだ!あたし達が園に行けば良いだけだし…』
水鳥ちゃんのものとは思えない、弱々しい声に、何かあったのかと推測する。
「水鳥ちゃん、どうしたの?」 『いや、何でも…』 「水鳥ちゃん!」
自分の口から漏れた、叩き付けるような力強い声に、自分でもびっくりする。水鳥ちゃんが電話の向こうで息を飲むのが聞こえた。
「水鳥ちゃん、どうしたの…」 『……霧野に、』
水鳥ちゃんの口から放たれたその名前に、思わず唇を噛み絞める。強く噛み過ぎたのか、軽く鉄のしょっぱい味がした。
『ペンダント、霧野とぶつかって割れたって言ってただろ?』 「…うん」 『でも、霧野、そんな悪い奴じゃ無いんだ』 「…うん」 『だから、何かあったんじゃないかって…ちゃんと、霧野と話して欲しいんだ』
水鳥ちゃんの悲痛な声に、言葉が出なくなる。水鳥ちゃんは、霧野君の部活のマネージャー。そっか、仲良いんだっけ。
『咲里、悪い』 「……水鳥ちゃんが言うなら、いい人なんだろうね」 『…え』 「でも、やっぱり、私のペンダントを割ったのは霧野君だし、それに…」
謝ってくれなかったから。
「…やっぱり霧野君は、嫌い。ごめん」 『…あ、いや、良いんだ、気にすんな』
水鳥ちゃんにはやっぱり申し訳ない。最後にもう一度「ごめんね」、と謝って、通話終了ボタンを押した。
(130527)
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