マーガレットの涙 | ナノ




茜ちゃんに「神サマファンクラブ」に入らないかとしつこく誘われて、それを必死に拒否していたら、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。

結局、大した話出来なかったな。話なんて勧誘拒否だけだ。


「…あ、授業準備してない」

「おー、じゃあな」


苦笑いで私たちの攻防線を見ていた水鳥ちゃんが片手を軽く上げて茜ちゃんを教室へと引きずって行くのを見て、軽く笑いが漏れた。
て、いやいや、こんなことしてる場合じゃない。私も教室へと戻った。


次の授業は何だっけ。遅れる先生を待ちながらカバンを漁る。ちら、と顔を上げて隣の席に座っている桃色の人の机の上を覗き見してみると、どうやら数学らしい。
数学、数学…。あった。良かった、問題集も教科書ノート、ちゃんと全部ある。机の上にそれらを放り投げて、頬杖をつく。先生遅いなあ。


ぼーっとしていると教室の前扉が開いた。先生だ。


「おはようございまぁーす」


抑揚のない間延びした挨拶に生徒も挨拶を返す。先生が座席表を覗きながら教室を見渡した。

「今日の欠席は…あ、望月さん。お久しぶりぃ」
「お久しぶりです」

ぺこりと軽く頭を下げると、先生はふむふむと頷いた。


「宿題、やってきてる?」
「プリントなら…」


ファイルからこの間水鳥ちゃんたちに渡された数学のプリントを取り出すと、先生はそれそれ、と軽く笑った。


「送ってきて貰えるかな」


前の席の男の子が振り向いて片手を出してきたので、プリントを渡す。それはどんどん前へと送られて、先生へと渡って行った。


「お、ちゃんとやってきてる」


嬉しそうにプリントを捲って眺めた先生は、顔を上げて悪戯っ子のように微笑んだ。

「合ってるかどうかは、わからないけど」

***


私は勉強が苦手だ。特に理由は無いけれど、とにかく勉強は苦手だった。
とは言いつつ、理科や社会などの暗記系はそれなりに得意で。とりあえず数学は論外だった。

指定されたページを開いた教科書を眺めていると、ため息が漏れてきた。数学は苦手。公式やなんやらで答えを求めて、出された答えに付くのは必ずマルかバツ。必死こいて求めた答えに、無慈悲に付けられるバツが大嫌い。解いた方の人間の努力も気持ちも知らないで、答えが違うってだけでバツを付けられるなんて。ちょっと単純過ぎやしないか。
教科書の練習問題を解いたノートに増えたバツを見て、またもやため息が出てきた。
マルバツは至極単純なくせに、何故問題はこうも複雑なのか。ああ、頭が痛くなってくる。

先生の説明が耳に入るけれど、頭には入らなくて。人間の気持ちも、もう少し単純だったら良いのにな、と机の上に突っ伏した。



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数学の先生は20代の若い男の人なイメージ。わんこ系。


(130917)