マーガレットの涙 | ナノ
茜ちゃんも自分の教室に戻ってしまって、私はクラスのみんなから労りや心配の声を掛けられていた。 もともと人と話すのはそれなりに得意だったし、ありがとう、と軽く微笑むとみんなも笑い返してくれるのが嬉しかった。
朝のHRを知らせるチャイムが鳴って、みんな慌ただしく自分の席に戻る。先生が来る前に日直が号令をかけていると、担任の先生がすぐ入って来た。そしてみんなと同じように席に着いている私を見て、
「おお、望月、来たのか」 「はい、心配かけてすみませんでした」
顔を綻ばせた。私も軽く頭を下げて応える。 頭を上げた時、ふっと視界の端に霧野君の顔が見えた。私の方を見てる。少し顔をそちらに向けてみると、目が合った。思いの他少し睨みを利かせてしまったのか、霧野君が驚いたような、戸惑ったような表情に変わった。
ごめん、心の中で謝るけど声には出さない。だって話したくないし、話せない。
顔を正面に戻す。その後霧野君がどうしたかは知らないけど、取り敢えず話しかけてはこなかった。
先生や係りからの報告や連絡が終わり、茜ちゃんと水鳥ちゃんの教室へ行こうと席を立った。その時、話しかけて来たのは学級委員の神童君。
「望月さん」 「…神童君、どうしたの」 「いや、少し心配だったから…元気そうで良かったよ」 「…ありがとう」
神童君がどこか安心したように笑顔を浮かべたので、私も笑顔で返した。 優しい人っているもんだな、この歳頃の男子でこんな紳士的な人なんて珍しいよなあ。神童君も去り、今度こそ行こうと足を踏み出しながら考える。
財閥のお坊っちゃまで、頭は良くて顔も良い、スポーツも出来てピアノはコンクールで賞を取る程の腕前。ついでにクラスの学級委員でーー部の元キャプテン、それでも今も司令塔として頑張っているらしい。
本当に神童だな、と少し納得しながら歩いていたら、人とぶつかった。すみません、と謝ろうとして顔を上げる。
「水鳥ちゃん!茜ちゃんも」 「前向いて歩かないと転ぶぞ」 「…危ない」
ぶつかったのが仲の良い子だったので驚いて声を上げれば、水鳥ちゃんには苦笑され、茜ちゃんには責められてしまった。うう、申し訳ない。
「ごめん」 「…何か考え事か?」 「いやぁ…神童君って格好良いよなあ、って」
軽くはにかみながら言った瞬間、茜ちゃんがガバッ、と物凄い勢いで顔を近付けて来た。
「あ、かね、ちゃん…?」 「神サマ、格好良い」 「う、ん…」 「やっと、咲里ちゃんわかってくれて、嬉しい。ファンクラブ入る?」
さすがに近すぎると思ったのか、少しだけ顔を離して本気で嬉しそうな笑顔になった茜ちゃんに、少し戸惑った。そこまで、熱くはなれないと思うけど…。
(130728)
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