マーガレットの涙 | ナノ





「ただいまー」


リビングで玲名さんたちといつもより早めの夕飯を食べていたら、玄関から聞き覚えのある声が。
それを耳にした瞬間、箸を置き、玄関へと猛ダッシュで向かった。


「リュウジさん!お帰りなさい!」

「わっ」


ダッシュの勢いもそのまま、玄関で靴を脱いでいたリュウジさんに抱きつくと、リュウジさんは若干よろけながらも抱き止めてくれた。こういう優しいところが大好きだ。


「ただいま、咲里」
「リュウジさん最近あんまり帰って来ないよね」
「まあ、ね」


苦笑いしながら言葉を濁すその様子に、一つ、思い当たることがあった。


「ヒロトさんに大きい仕事貰ったの?」

「う、ん…まあ、そんなところかな」


大分歯切れの悪い回答に内心首を捻りつつ、久し振りにあえたことが嬉しくてまた笑顔をつくった。


「今日の夕飯、私が作ったの」
「へえ!晴矢は?」

「………倒れてる」


眉を下げながら笑えば、リュウジさんも苦笑いを返してくれた。




「ふう、ご馳走さま」
「どうだった?」
「おいしかったよ、腕、上達したね」
「わ、ありがとう!」


そう微笑みかけられ、思わず笑顔が溢れる。今日晴兄いなくて良かった!私の料理をリュウジさんに食べてもらえるなんて嬉しい。


「空き腹にまずい物無し、ってやつだろ」


リビングの扉の開く音に続いて、あの、人を小馬鹿にしたようなムカつく声が聞こえる。


「マサキ、………おかえり」

「ただいま、ねーちゃん?」


わざとねーちゃん、の部分を強調してくるところがまたムカつく。私を歳上呼びするのは大抵人を馬鹿にしている時だ。ああ、ムカつく。


「……ご飯食べる?」
「…咲里が一人で作ったカレーねぇ」


ほら、名前呼び捨てに戻ってる。そして中傷するかのような言い方に、やっぱりムカつく。


「あんた、本当晴兄に似たよね」
「嬉しくねぇ」


それだけ態度や言葉使い真似ておきながらなんてこと!目尻を吊り上げれば、リュウジさんから制止の声。


「まあ、マサキも部活の後で疲れてるだろうし、取り合えず食べなよ」


そんな不味そうなもの食う度胸ありません、と呟くマサキに、


「ほら、空き腹にまずい物無し、ってね」


リュウジさんがまさかのマサキの言葉を復唱…。うそ、そんな、不味かった?


「やっぱり不味いんじゃねぇか」


じとり、とこちらを見やるマサキに反論の言葉も出ない。
その様子に、リュウジさんのフォロー。


「例えの話だよ、ちゃんと美味しかったし」


そのフォローにもマサキが先程の諺を口にしようとした時、リュウジさんは。


「実は俺、さっきまでケーキ三つ食べてたんだよね」


………なんてこと。



さすがですリュウジさん!これだから私はこの人が大好きなのよ!



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シリアスどこいった

(130629)