マーガレットの涙 | ナノ




一通りの勉強を終えて、夕食の仕度をしようと立ち上がると、丁度良いタイミングで携帯が鳴った。茜ちゃんからの電話。


『…もしもし』
「茜ちゃん、今日は早いね」
『うん、最近、どう?』


茜ちゃんのふんわりした声に安心する。


「結構、回復して来たかも」
『良かった…』
「でも、学校にはまだ、行けない、かな」
『………そっか』



学校に行けば霧野君がいるし、あの部活がとても強いうちの学校では、毎日のようにあの単語が飛び交う。そこで堪えろなんて、ただの、拷問。


思い出せないゆらゆらぼやけたあの人の顔が脳内にちらついて、ガンガンと頭が痛む。嫌い、嫌い。


『咲里ちゃん』
「あ…」


ふわふわしたあの子の、はっきりとした声に、我に返る。


『大丈夫?』
「うん、ごめん…」


また心配させてしまったことが申し訳なくて謝罪すると、「謝らないで」と強い声で言われた。


『元気になるまで、待ってるから』
「うん、ありがとう」


茜ちゃんの優しさに感謝の気持ちが込み上げてくる。こんな、自分を心配してくれる友達がいるなんて、私は、幸福者。水鳥ちゃんだって、園のみんなだって、大好き。


『今日、数学でプリントの課題出たみたいだから、園に行く予定』
「うん、わかった」


お菓子用意しておくね、といつも通りに返すと、茜ちゃんが、小さく、あ、と声を漏らした。


「茜ちゃん?」


暫く間があって、


『ごめん、そろそろ部活だから』


茜ちゃんの声が聞こえて、プツッ、ツー、ツー、ツー…
電話が切れた。

そっか、茜ちゃんと水鳥ちゃんはあの部活のマネージャーだもんね、私みたいに暇じゃないよね。
それがなんだか悲しくて、気分を紛らわせよう、と部屋を出て台所へ向かった。




(130608)