今日も私は、あの人を待つ。

知らないうちに町からいなくなってて。大人に聞いたら旅に出た、って。(声くらいかけてよ、馬鹿)
旅で色々な所を歩き回ってるあの人に、連絡なんて勿論取れないし。あっちからだってなんの連絡も無いし!
今彼がどこにいるのかすらも分からない。
約束なんてしてないけど、私がずっと待ってる、って知ってるんでしょ。それでいて帰って来ないなんて、悪趣味。

私をどれくらい待たせるつもり。いい加減にしてよね、
呟いてみたけど、やっぱりあなたには聞こえて無いんでしょ、(知ってるわよ、そんなの)
あなたを待つ時間、無駄だな、っていっつも思う。でもやっぱり、帰って来たあなたに一番初めに会うのは、私が良いの。(我が儘、貪欲、そんなの、分かってる)

今日は帰って来ますように、って。今までに何回祈ったと思ってるの。無視するなんて、酷い。(聞こえてなかった、なんて言わせない)
会えない日々が寂しすぎて、どうにかしてしまいそう。

だってまさか、私の気持ちを伝えよう、って決めた次の日にいなくなるなんて。(狙ってたの?)

ああ、帰って来たら、思いっきり抱き付いて、抱き締めて、好きだよ、って言ってやるの。(絶対、慌てさせてやる)

1番道路前、一人佇む不審者、少女。
でも町の人はもう見慣れてるでしょ、毎日の日課、だもの。

あれ、でも、彼はどうやって帰って来るの?旅立った時みたいに、歩いて?それとも、


バサッ バサッ


遠くから聞こえる、力強く風を切る音。なんでこんなに心地良いんだろう。
どんどん大きくなっていくその音が、私の真後ろまで、


ドシ、 ン


地響き、揺れる。驚いて音のした後ろを振り向けば、目に、砂埃。口にも。


「ゴホッ、 けほっ…」


咳込んで、痛い目を擦って、砂埃が落ち着いた頃、もう一度そこを確認したら、


「ただいま」


…ああ、彼。
格好良くなっちゃってさ、こんな大きいリザードン、まで従えて。


「おか、え、り」


放心状態の中、やっとのことで発した言葉。これだけでこんなに疲れて。

(彼を慌てさせるなんて、まだまだ先みたい)


「ちゃんと、帰って来たよ」
「う、ん…」


一見不機嫌そうにも見えるその表情に、優しさがたくさん詰まっているのが見えた。(自意識過剰、それでも良い)


「おかえ、り…」
「うん」
「おか、」
「ただいま」


リザードンから降りた彼に、ぎゅうっと強く抱き締められた。


「なん、で」


「なんで、言って、くれなかっ、た、の…?」
「………ごめん」
「すっご、い心配、して、博士に、聞いて、泣いて…」
「…うん」

「泣いたの、わたし」


ぐずぐずとみっともなく鼻をすすりながら、鼻声で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。それを見ても、彼は慌てない。(女の涙は最大の武器、じゃなかったの?)


「…知ってたよ」

「え…」


その静かな声に、目を見開く。知ってた、って。私が泣いてたって。


「博士に聞いた」
「な…」

「博士には、定期的に連絡してた」
「そんな、でも…」


博士には、彼から連絡があったら教えて欲しいって、言っておいたのに。


「香織には伝えないで欲しい、ってお願いした」
「なん、で…」


一瞬驚きで止まった涙が、もう一度流れ出す。どうして私には連絡してくれなかったの。知らないうちに旅立って強くなって大人になって。私ばっかり置いてきぼり、なんて、酷すぎる。


「強くなるまでは会わない、話さない、って決めた」
「は……」
「お前と話したら、帰りたくなる、って分かってたから」
「…………」
「だから、今帰って来た」


そう言うとファイアは、私を抱き締める力を抜いて、私と正面から向き合った。やだ、こんな涙と鼻水で汚い顔、見られたくない。


「強くなって、帰って来た」
「、うん」
「でも、まだ、お前を守れる程には強くなれてないと思う」
「…あのね、ファイア、」
「だから、また次会うのはもう少し先だ」


私の言いかけの言葉を遮って、ファイアはまた後ろで控えていたリザードンの背中に乗り込むと、


「行って来る」


そう言って、またマサラを旅立って行った。

ああ、また、伝えられなかった私の気持ち。でも、次こそは、伝えてやる。

急に帰ってきたと思ったらまた行っちゃうなんて。このリザードンが飛び立った後に残る砂埃、なんとかしなさいよ馬鹿。


「行ってらっしゃい」



(130619)

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