「やっほー!香織ー!」
「うああああ!?なっ、なに!?」


いきなり後ろから飛び付かれ、突然の事に戦闘職派でも無い私が反応出来る訳が無く、思いっきり前につんのめって、転んだ。その瞬間、近くを歩いていた人たちに生温かい視線をいただいた。いらねぇよ。


「大丈夫さ?」
「大丈夫…ありがと」


後ろから飛び付いて来たラビは私の前方に回り、手を差し伸べてくれた。ありがたくその手を取って、

物凄い力で引っ張られた。


「えぇ!?」
「あっ、悪ィ!」


彼の手を取ったのとは反対側の腕に抱えていた箱が、驚きで力の抜けた腕の中からするりと抜け落ちる。


「あっ……」


どうしよう、あの箱の中には…!

落ちた箱から勢い良く飛び出た小瓶。それらはラビの方へと向かって行く。


「ラビッ……避けてぇー!!」


慌てて回避を促すが、時すでに遅し。その小瓶たちは次々とラビに直撃していった。
瞬間、ラビが煙に包まれる。辺りに転がっているのは蓋の開いた小瓶。


「あぁ…ラビ、ごめんね…」


「げほっ、ごほっ…、」


しばらくして煙の中から出て来たラビに、思わず言葉を失う。


「一体、何なんさ?」


背は縮んでいて、頭に付いているあれはきっと兎の耳。隠れてない、左目の周りにはパンダのような黒い跡、モジャモジャとした白い髭は彼のボウボウと伸びまくった赤い髪の毛をリボンにして結ばれている。

…何コレ…面白すぎ…!


「ラ、ラビ…」


笑いを堪えているせいで震えた声で名前を呼べば(堪える必要無いけれど)、彼は心配した様子を見せた。


「どっ、どうしたさ!?大丈夫か!?」

「……っぷ、あはっ、あはは!」


あの格好で必死な顔されちゃあ、本人には申し訳無いけれど笑わない訳にはいかない。一人で笑い転げていると、そこを通った神田に冷めた目で見られた。何でお前は笑わないんだ畜生。


「なっ!?何で笑ってるさ!?」
「あ、っは…ご、ごめっ……ぷはっ…」
「だっ、誰か!香織がおかしくなったさー!」
「だっ、だい、っは、じょぶ、だからっ…あひぃっ」
「いや、絶対大丈夫じゃないさ!」


止めても人を呼び続けるラビ。君がいなくなれば私は笑いが治まるんだがね!


「ラビ、少し落ち着きましょう」


いつの間に来たのかリナリーの声。


「な、でも、リナリー!」
「まずは一旦、ここから離れましょう」
「何言ってるさ!このままじゃ香織が!」
「……どう考えてもあなたが原因じゃない」


リナリーが不思議そうに首をかしげる、けど、今の私には表情が見えないから不思議そうにしているのかどうかは確かじゃない。


「ど、どういうことさ!?」
「あなたの姿がおかしいから笑い転げてるんじゃないの?」
「!!!??」


もしかして気付いてなかったの?なんてリナリーの声が聞こえる。ねぇ、何でみんな笑わないの。おかしいよ、絶対おかしいよ!運動不足の私が明日お腹筋肉痛になりそうなくらいやばい状況だっていうのに!


「ほら、わかったらさっさと行きなさい」
「あ、ああ…」


ラビの立ち去る足音が聞こえて、でも、あの姿がまだ脳内に焼き付いているため笑いは止まらない。


「いつまで笑ってるの。香織はツボが浅過ぎよ」
「だって…!あんなの、絶対、おかしっ…あはっ」


途中止まりかけた笑いが、またあの姿を思い出して始まった。


「まったくもう…」



その後も、私はラビを見るたびに笑い出し、しばらく私とラビの接触はコムイによって禁止されたのである。



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