「さ、沢田君!ちょっと、良いかな」
「な、何?」


見てよこの沢田君のこのびっくりした顔。まあそうだよね、話した事そう無いもんね。


「ああああの!あの、あ、えとぁ…あの!」
「うん」
「あぁ、あの!バ、バジルさんてごご、ご存知でしょうかか?」


慌ててどもりまくる私に対して、沢田君のこの落ち着き様。普段ダメツナって呼ばれてるけど、たまにしっかりしてる事がある(京子ちゃん談)。


「え、バジル君?」
「あ、や、やっぱりご存知ですか!」


沢田君がバジルさんの知り合いだと知り、取り合えず安心する。もし知り合いじゃなかったら…。私ただの迷惑女だ。


「えっと…バジル君の…知り合い?」
「ああいえ!この間、不良に絡まれていたところを助けて頂いて、その…」


『一目惚れした』、なんて言えない。仲が良いわけでもない同級生に自分の色恋沙汰な話なんてしないよ!バジルさんのことを聞くのだけでも充分迷惑なのに。


「えと、…お、お礼がしたくって!」
「……ああ、八代さんだったんだ」
「え?」
「前に、不良に絡まれてた女の子を助けた、って聞いたから。並中の生徒だって言ってたけど、八代さんだったんだね」


何ですと。バジルさんが私の話を…っ!?何それ嬉しい!嬉しすぎて涙出てきた!結構マジな感じで。


「えっと、だ、大丈夫?」
「すっ、すみませっ」
「いや、あの」


沢田君は、じっと見つめた後で良い放った。


「何なら、会いに来る?」



ただいま帰路なう。
沢田君のお許しを得て、バジルさんに会いに沢田君の住むお家に向かっております!なんでも、バジルさんは事情あって沢田君のお家に居候なさっているとか!

そこでハッと気付く。突然誘われたからお礼の品何も持ってない…!
ど、どうしよう!ここは日を改めてまた来た方が…!ででででも、そしたら家まで案内してくれてる沢田君に申し訳無い。沢田君だって獄寺君とか山本君とかと帰りたかった筈なのに…。
私ってとんだ迷惑女。思わず口からため息がこぼれる。


「八代さん?」
「は、はいっ!」
「どうか…したの?」
「、え」


沢田君に心配、されて、いるのか、な?な?え、だってどうしたの、ってえ…。


「いや、考え事して、ため息ついてたから…」


え、何この人。どこら辺がダメツナなの。全然ダメじゃないじゃん。


「…お、お礼の品、持ってない、なぁ、って…」


うわぁ口が滑った。どうしようとてつもなく恥ずかしい。今までの人生の中で一番恥ずかしい事しちゃった、っていうか言っちゃった。


「それなら…ケーキ屋、寄ってく?」


ええ、マジで何この人。



ケーキ屋なう。
沢田君のお言葉に甘えて、ケーキ屋に寄らせて貰いました。ど、どうしよう。折角付き合って貰ったんだから沢田君にも何か奢るべき、だよね…。でもそしたらご家族の方にも…。ええい!ここは金欠覚悟で奮発しちゃえ!


「さ、沢田君って…今、何人家族…です、か?」
「………8人、かな」
「」


8人…!?はち、にん?8…!?


「すすすすごい大家族ですね!」
「うん、まあ…」


その後、沢田君にバジルさんの好みを教えてもらいながらケーキを選んだ。
8人分ケーキを買ったら、沢田君に「そんなに買うの!?」と驚かれた。いえ、バジルさんと貴方と貴方のご家族の分ですよー。
でも、8人分はキツい。もう財布はすっからかんだ。寧ろそのお金があった事自体が奇跡。この間財布に入れておいて良かったぁ。

そのまま沢田君とお家の方に向かう。会話ナシで。バジルさんに会うから緊張してる。あ、ケーキ崩れないように慎重に歩かなきゃ。


「ここだよ」


沢田君の声に、うつ向いていた顔を上げる。あれ、私の家よりは大きいけど、意外と普通なお家だ。ここに8人も住んでるの…?


「ただいまー」


玄関の中に入らせてもらう。
そしたら、中から美人なお姉さんが出て来た。めっちゃ若い。沢田君のお姉さん、かな…?でも顔立ちとか、すごい外人さん。


「おかえり。あらツナ、その子は?可愛らしいわね、ツナの彼女?」
「違うよ!」


え、でも日本語がすごいお上手。


「母さんは?」
「ママンなら、夕飯の買い物よ」


ママン…?沢田君は母さんって呼んでたけど、ママンってやっぱり…。


「あ、ねえ、それよりバジル君は?」


沢田君の言葉にハッとする。そうだ、私はバジルさんにお礼をするためにここまで来たんだ。何外人のお姉さんに見とれてるの。


「ああ…彼ならツナの部屋に居ると思うけど」


そう言ってから、どうして?と首をかしげる。本当に美人さんだ…。
それに沢田君はありがと、と短くお礼を言って、玄関を上がる。私も上がって、と言われたのでお姉さんにお邪魔します、と一礼して上がらせていただく。
ここでバジルさんは生活してるんだなぁ…。何か、感動。


「オレの部屋上だから」


沢田君が進んで行くので、私も着いて行く。


「ここがオレの部屋」


沢田君が1つの扉の前で立ち止まる。ごくりと唾を呑み込む。この先にバジルさんが…。沢田君が扉を開けると、綺麗な亜麻色が目に飛び込んできた。彼だ、バジルさんだ。


「おかえりなさい、沢田殿。…あれ、そちらの方は…」


バジルさんの目が私に向けられる。やっと、また、話す事が出来る…。今まで何度も夢見たこの瞬間!


「あ、この子は…」
「あ、あの!この間、絡まれていたところを助けて頂いた者です!あの時はありがとうございました!」


頭を深く下げる。意外とスラスラ言葉が出てきたぞ。というか沢田君が話してる途中だったな。人の話を妨害する女。沢田君にもバジルさんにも、嫌な印象与えてしまったかもしれない。どうしよう…。


「あっ、やはりおぬしでしたか!」


おぬし…?それより、やはり、って…。びっくりして下げていた頭が上がる。


「あの…」
「この間、初めてお目に掛かった時、一目惚れしました」
「…………」


ひ、一目惚れ…?ひ と め ぼ れ 。


「……へぃぁ!?」


その言葉の意味を理解した途端、口から変な声が出てきた。顔が熱い。つまり、バジルさんは私を好いていてくれて…。両思いって事になるじゃないか!やばい、嬉しい。
ちらりと横の沢田君を見てみたら、にこにこしていた。
もしかして、私がバジルさんのこと好きだってバレてた…?すっごい、何か、嬉しいけど微妙な気分。恥ずかしい。
一方的に気まずくなってもう一度バジルさんを見ると、頬が若干赤く染まっていて、更に恥ずかしくなった。
頭がもう、ショートした。うわああああ。



(こ、これ!お礼のケーキです!さようなら!)
(あ、ありがとうございます…?)


____

バジル君ちょっとしか出てないな。続くかもしれない。


(130407)

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