※若干キャラをとぼす感じの表現あります










「あ、」


久し振りに見るオレンジの後ろ姿。声を掛けようとして、やめた。
私、これ、声掛けちゃ駄目だよね。みんなを裏切ってしまったんだから。いや別に私はそういう、なんというか、む、無理矢理?誘われただけでそんな自らやりだした訳じゃ無いし…。というか自分から行く訳が無い。だって嫌だ、喜多さんのサッカーが見れないなんて!
まあでもやっぱり、気まずいなあ。


「あ、八代」

「えっ…あ、……」


いつの間にかこっちに気付いていた彼に声を掛けられてしまった。え、やだ、どうしよう。


「こ、こんに、ち、は…」


なんてたどたどしい。たったの一言だけなのに。


「久し振りだな」
「あっ、ああ、そ、そう、ですね…」


どもりまくりで尻すぼみ。こんなに緊張した事無い。

とりあえず喜多さんに促されて、近くの公園のベンチに2人で腰掛ける事にした。


「あの、喜多さん…」
「、どうした?」


少し、伺うように名前を呼べば、爽やかな、優しい笑顔で続きを促すように小さく首をかしげる喜多さん。
この人、気にして、ない、のかな。

「あの、えっと…」
「?」
「……な、なんか、すみません…」


喜多さんの前だと言うのに、なんて情けない姿。いつもみたいに明るく振る舞いやがれ馬鹿。


「ええっと…マネージャー、の仕事、出来なくて…」


そう、声を絞り出すと、喜多さんは辛そうに、悔しそうに、顔を歪めた。ああ、何やってるのよ私。喜多さんにこんな表情させるなんて。


「あ、あの…」


声は更に震えて、じわり、視界は軽く霞む。もうやだ、後悔。3分前の自分に言ってやりたい。喜多さんにサッカーの話題は振るな、って。


「す、すみませ…」
「最近、どうなんだ?」
「あ……」
「イナズマジャパンの活躍、聞いてるぞ」


何で、私がイナズマジャパンなんかのマネージャーなんてやらなきゃいけないの。
皆帆君と同じ学校でサッカー部のマネージャーをやってるから?知らないわよ、そんなの。私は喜多さんのサッカー部のマネージャーなのに。そもそも皆帆君ってサッカー部じゃ無いし、ついこの間、イナズマジャパンのメンバー発表の日まで知らなかったのにそんな人。


「私、イナズマジャパンのマネージャーなんてやりたくなかったです」
「…ああ」
「選手になった人の内、8人、雇われてるんですって」
「………」
「サッカー出来ないのに、何でそこまでしてメンバーに入れたんでしょう」


喜多さんはイナズマジャパンのメンバーに選ばれなかった。なのに何であんな人たちが選ばれるの。雷門の3人は分かる。サッカー部で、ホーリーロードでも随分活躍してた人たちだったし。でも、なんで…。


「俺は、一等星にはなれなかった、って事かな」
「え……」

「例えば、いくら俺が、サッカーが上手で、部活のキャプテンをやってて、ホーリーロードで優勝出来たとしても、俺は一等星にはなれないんだ」


喜多さんの言っている意味がよく分からない。一等星?そんなの、ホーリーロードで優勝出来ればもうなれてる、のに。皆帆君とかより、ずっと、喜多さんの方が一等星、なのに。


「分からなくても、良い」
「あ、の…?」
「俺は自分の力を信じて頑張るから」

「ええっと…喜多さん!」


視線を下げて話していた彼の名前を半ば叫ぶように呼べば、喜多さんは驚いたように顔を上げてこちらを振り向いた。


「私、馬鹿だからよくわからないんですけど…」
「……」
「喜多さんは、私にとっては一番ですから!」


きゃー、どさくさに紛れて下の名前呼んじゃったー!なんて心の中だけで悲鳴を上げながらにっこりと無理に笑顔を作れば、喜多さんも困ったように、でも少しだけ嬉しそうに微笑んだ。



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