昨日は彼、忍足謙也くんの誕生日だった。そう、“だった”のだ。
「‥‥」
「おい、なに死にそうな顔しとんねん。ぶっさいくやわ〜」
隣から痛い攻撃をしてくる一氏くんの言葉すら気にならないほど、わたしはダメージを受けていた。ポ〇モンで言うなら赤の部分。
言い返さないわたしに疑問をもったのか、首を傾げる一氏くん。
「小春ぅ、コイツどないしてん?」
「それはねユウくん!昨日は謙也きゅんの誕生日。ここまで言えばわかるやろ?」
「あ〜せや!お前‥確か昨日学校休んどったわ」
「‥‥」
学校を休んでいるうちに彼氏の誕生日が終わっていたのだ。しかも昨日が誕生日とか、わたし初めて知ったからね!だからプレゼントとか用意してない訳で、朝からテンションは下がりっぱなしなのだ。
昨日のメールではそんな素振りぜんぜんなかったのに。わたしの心配ばかりだった。差し入れも持って来てくれたのに。ああ、どうしようこれじゃ彼女失格だよ!
「まぁそない落ち込まんと、今日一緒に帰るんやろ?」
「‥うん」
「ん、コレでも飲んで気持ち入れ替えるんやな」
ラブルスの二人はそれだけ言うと、仲良く帰っていった。一氏くんが置いていった炭酸のジュースを一口飲むと、しゅわしゅわとした刺激が喉を通る。けれどもわたしの気分は全く晴れなくて、昨日とか、謙也くんかわいい子たちからたくさんプレゼントもらったんだろうな、とか余計な事ばかり頭に過った。
何かあげれるもの、と思いポケットや鞄の中をあさってみるけど、プリントやらお菓子のカスしかでてこない‥‥。誰もいない一人の教室が虚しい気持ちを増幅させた気がした。うつむいていると教室の扉が大きな音をたてて開いた。
「遅なってすまん!」
「!」
勢いよく教室に入って来たのは謙也くんで、急いで来てくれたんだという事が直ぐにわかった。
なんだか謙也くんの顔を見た途端、視界がぼやけていく。
「‥‥う〜」
「え?!な、どどどどないしたん?!」
謙也くんは慌ててわたしの席の前に来て、目線を合わせるように屈む。
「お、俺、何かした?」
わたわたとすごく焦ったように聞いてくれるけど、そんなんじゃない。謙也くんのせいじゃないの。わたしが勝手に落ち込んでるだけ。ふるふると首を振り否定すると、じゃあどうしたん?と優しくわたしに問いかけた。
「‥謙也くん、昨日誕生日だったって」
「へ?‥あ〜、せやな」
「わた、わたし、か、彼女なのに‥なんにも知らなかった」
「‥‥、」
初めて出来た優しくてかっこよくて、素敵な彼氏のために、ケーキを焼いてあげたり、プレゼントをあげたりしたかった‥‥。
不意にそっ、と手に触れた温もり。そこを見れば謙也くんがわたしの手を握っていて
「‥ええよ、そんなん」
「?」
「そんなんお前が気にする必要ないで‥‥せやけど、」
そう言うと照れくさそうにうつむいてポツリ、と一言溢した。
「ぎゅ、ぎゅう、したい‥とかダメ、ですか?」
「っ!?‥‥だ、ダメじゃない‥です」
かぁああっと身体中に熱が集まってきた。お互い目を合わせると恥ずかしくなって、パッと視線をずらす。
「ほ、ほな」
「う‥うん」
おそるおそる、回ってきた腕に緊張してビクッと身体が反応する。恥ずかしくて、恥ずかしくて沸騰しちゃいそうなくらい熱い‥でも、すごく心地いい。
わたしもゆっくりと彼の背中へ腕を回す。そのせいでペットボトルが床に落ちて、しゅわしゅわと炭酸が弾けていくけれど、そんなのどうでもいい。
「‥好きや」
「わたしも‥‥おめでと」
「おん」
胸に広がるのは、謙也くんのにおいと、優しさにいっぱいのドキドキ。しゅわしゅわと浮いてくる気泡は、わたしと謙也くんの張り裂けそうな鼓動のように、鳴り止まない。
炭酸水に浮かぶ恋
2011.3.20
謙也くん誕生日おめでとう!!
遅れちゃってごめんね(・ω・`)
だけど愛はぎゅうぎゅうに詰めたぜ!
企画:けにゃ誕! に提出させていただきました。
海さん素敵な企画ありがとうございました!