「……っ、」
真っ暗な世界だった。
その世界は震えるほど寒く、人ひとりいない。
いや、人ひとりいないわけではないな。
世界を見渡しながら、黒崎一護は考えた。

「……ぅっ、」
泣き声か、呻き声か。
真っ暗な世界に反響して、一護の耳に響く。
「…誰かいるのか?」
問いかけてみても、返事は返って来ない。
「……に…な、で…。」
諦めかけたその時、一護の耳に誰かの声が聞こえた。
「この声、冬獅郎…!?」
世界に雪が降り始める。
「ひと…に、しな…で…。」
段々はっきりと冬獅郎の声が聞こえるようになった。
同時に冬獅郎が何を言っているかも理解できた。
「ひとりにしねぇよ、だから何処にいるか教えてくれ!!」
頼むから、と一護は叫ぶ。
そのとき目の端で真っ暗な世界の中
一瞬だけ、キラッと光ったような気がした。
一護は冬獅郎だと思い、走り出した。


「ひとりに…しな、い…で。」
暫く走っていると冬獅郎の声がはっきりと聞こえるようになった。
泣いていることもわかった。
「…冬獅郎?」
しかし、冬獅郎の腹から銀色のものが飛び出していることに気づいた。
それは、冬獅郎が大切にしているもののひとつであり、斬魄刀である、氷輪丸だった。

どうなってんだ!?

「冬獅郎、俺の声が聞こえるか!?」
冬獅郎の肩を持って、一護は叫んだ。
「…っ!?」
しかし、冬獅郎の肩に触れた瞬間
手の先から氷始めた。
一護は驚いて、手を離す。
その時初めて、冬獅郎が一護を見た。
「……くろさ、ひとり…に、しな、い…で。」


「…っ!?」
冷や汗が止まらない。
手が凍っていないことに気づいて、俺は夢だった事に気づいた。
夢だと理解しているのに、あまりにもリアル過ぎて冬獅郎の事が心配になる。
「…俺は何をやってんだ…。」
夢の中で俺は冬獅郎を助けられなかった。
あの、心の叫びを無視したのと同じだ…!
そう考えると居ても立ってもいられないと、一護は死神化して外に出た。

井上の家や、浦原のところ、街中。
思い付く所は隅々まで探した。
しかし当たり前だとは思うが、冬獅郎の姿はない。
町の中では一番広い公園を通り過ぎようとした。その時だった。
「…この公園、歪んでるのか?」
よく目を凝らして見ると、ブランコや
滑り台が時々、ぐちゃっと握り潰されたように歪んで見える。
「…結界か!?」
一護は斬月を頭上で構えて、大きく振り落とした。


斬月で斬った箇所から空間に入った一護は
あまりの寒さに腕を擦る。
そして前を見た。
「…冬、獅郎?」
一護の視線の先、銀色の少年…冬獅郎が滑り台の上で何処か遠くを見つめていた。
「何してんだよ、冬獅郎!!」
そのまま何処か遠くへ消えて行きそうだった。
俺の手が、声が届かない何処か遠くへ冬獅郎が何も言わずに消えて行きそうだと。
気がつくと一護は叫んでいた。
冬獅郎はいつもなら、一護の存在に気づいていたように仏頂面で「なんだ?」と返事をしていただろう。
しかし、今気づいたように驚いた顔で一護を見た。
「くろさ…っ!?」
それも一瞬でいつもの表情に戻る。
ただ、いつものような瞳に覇気がない。
「…結界、破ったのか。」
「あぁ、邪魔したか。」
しれっと言ってのける一護に冬獅郎は眉間に皺を寄せた。
「…そう思うなら、帰れ。死神が結界を張ってるんだぞ、理由があるんだよ。許可なく入るな、馬鹿。」
「許可なら俺自身に取った。…それより、ここ寒いだろ。風邪ひくぞ?ほら、こんなに冷てぇ。」
そう言って一護は冬獅郎の手を握った。

―「冬獅郎は本当に寒いのが好きだなぁ。」
「そう言う訳じゃねぇよ。」
「ははは、でも風邪ひくぞ?こんなに冷たいじゃないか。」

「く、さか…。」
ぽろり、冬獅郎の口から溢れ落ちた言葉に一護は首を傾げる。
「くさか?何だ、それ。」
「…何でもない。それより手を離せ。」
「嫌だ。」
「…はぁ?」
冬獅郎は今日の黒崎は頑固だ。とまた少し、眉間に皺を寄せる。
「…あのさ、夢を見たんだ。」
急に話始めた一護に冬獅郎は首を傾げた。
「その夢に…冬獅郎が出てきたんだ。」
「…!」
「それで気になってさ…。」
「……わざわざその為に探したのか、俺を。」
先程とは様子か違う冬獅郎に一護は戸惑う。
「あ、いや!そうなんだけど、子供扱いしたとかそんなのじゃねぇから!!」
「…してたのか…?」
「いやいや、してないです!!…ただ、友達だしさ…放っておけねぇから。」
ぴく、と冬獅郎は友達と言う言葉に反応した。
「…友達、か。」
「当たり前だろ。」
あぁ、前にもこんな会話をした事があった。
草冠。俺の大切な友達。
そして俺の光だった。

冬獅郎は目を閉じた。
そうすれば何となく、草冠に会える気がした。
会えないのはわかっているが。

一護は表情が幾分、優しくなった冬獅郎に安心した。
「何かあったら相談しろよ、冬獅郎!!」
「…日番谷隊長だ。」
「わかった、わかった。…じゃあな。」
いつものようなやり取りをして
また明日冬獅郎に会おう。
そんなさよならだった。

一護が消えた空間でまた一人になった冬獅郎は呟いた。
「…一度光を失った俺は、もうお前たちの元へは帰れないよ。黒崎。」



dream
(いつまで俺は夢を見ているのだろう。)



「冬獅郎、何で…!?」

「何故?俺はもう闇の住人だからだよ。だから、もう夢から醒めないといけない。闇に戻らないといけない。」



−−−−−キリトリ−−−−−
草冠は冬獅郎にとって大切な光だったと思うのです。
だからこそ、こんなダークな話をつくりたいと思ったのです。

こんな話に付き合ってくださりありがとうございました。

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