新幹線に揺られ2時間半ほど。
窓の外は毎年夏、全国の猛者たちと競うためにと静かながらに意気込んでみていた景色で。
違うのは所々に溶けきっていない雪と春の訪れを表す桃色の花たち。そして多くの仲間たちと乗っていた車両には自分1人。
富士山が見えたときには遠山が東京と間違うて降りてったな、なんて昔のことを思い出していた。
向かった先は東京。これから俺が暮らす街。
大学は都内にすると決めていた。中学を卒業してからずっと。
◇
家の隣に住む同い年の女子がおった。所謂幼馴染というやつ。
幼稚園、小学校とずっと一緒に通っていたし、遊ぶときも大体一緒。家族ぐるみでご飯を食べたりすることもあった。
中学生になってからは家族ぐるみの付き合いはあったものの、あまり一緒にいることは少なくなっていた。
部活の練習で忙しかったからとかそういうのは半分ホント、半分建前で。本音は思春期というのもあってか、周りからのからかいとか、気恥ずかしさとか、そういう理由。
どうせ高校に行っても一緒にいるもんやと、なんとなくそう思っていた。
「私、引っ越すの。神奈川県だって。」
その時の名前は寂しいけど仕方ないしと涙をこらえるように笑っていた。遠いねーなんて言いながら。本当は寂しがりやで泣き虫なくせに。
ずっと隣にいた、これからもずっと一緒にいると思っていた幼馴染は、中学卒業と同時に俺の隣からいなくなった。
もっと一緒にいたかった、なんて。そんな気持ちが芽生えたのに気がついたのは名前がいなくなってからのことだった。
当たり前の存在がいなくなって初めて大切だと感じた。名前に会いたくて仕方なかった。理由なんてわからん。ただ会いたい、それだけや。
それだけが都内の大学を目指した理由。
◇
新幹線を降りて、改札を抜け周りを見渡す。
会うのはおよそ3年ぶり。あの頃より少し伸びた髪と今の季節を纏ったような桃色のロングスカートを揺らしてその人物は振り返った。
「…ひかる!」
ああ。やっと会えたな。
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