00

記憶の中の審神者は笑っていた。
真っ黒に焦がしてしまったホットケーキを前に『食べられるから大丈夫だよ』と言って、励ましつつも心底おかしそうに腹を抱えて笑っていた。
パッケージには狐色に焼かれたふかふかのホットケーキの姿があったが、山姥切国広が焼きあげたものは、かちかちの炭のような黒い塊だった。
せっかく焼き方が書いてあったというのに、とにかく焼けばいいのだろうと火加減を調節せずに焼いてしまったのだ(仕方がない。ホットケーキどころか調理自体が初めてだったのだ)。すると、フライパンからむくむくと灰色の煙が立ち上がり、それに気が付いた審神者が慌てて火を止めた頃には片面が真っ黒になっていた。
国広は焦がしてしまったホットケーキにしばし呆然としてしまったのだが、その隣に立つ審神者がぷっと小さく吹きだしては笑い出した。
腹を抱え、涙を浮かべて笑う審神者に、ついさっき初対面を済ませたばかりの相手に随分失礼な女だと思ったが、多分、きっと、会話の糸口さえ手探り状態だった気まずい空気が失敗したホットケーキのおかげで解れたのだろう。
そう思うと、呼吸さえ苦しそうにして笑う審神者につられて国広も薄く笑い始めてしまい、ふっと口角を緩めてしまったらあとはもう駄目だった。審神者に負けないくらい、二人で笑い合ってしまった。
かちかちのホットケーキはもちろん不味かったし、バターと蜂蜜を付けてもとても食べられたものではなかったが、それでも審神者は「美味しい。とっても美味しいよ」と言って食べてくれて、胸がむず痒くなったのを覚えている。
へにゃりと笑う審神者に、こんな女が主で大丈夫なのかと思ったが、同時に守ってやらなくてはと思ったのもその緊張感の欠片も無い笑顔を見てからだ。
初期刀の山姥切国広が思い出す審神者の顔と言えばそれだ。
今はもう、だいぶ見ていないけれど。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -