こころ

『――いえ、そうではなく。こういった場合、先程申し上げた事例がありますので、おそらく審神者様の刀剣男士の報告不備では…………』
「……それは私の刀に問題があると仰っているのですか?」
『問題があるなしではなく、事例がありますので……』
「いえ、もう結構です。私が提出した報告書はお戻し頂けますか? それから、もう当本丸への依頼はご遠慮ください。他の本丸を当たってくださいませ。それでは」
お待ちください、と聞こえた通信を、審神者はむっすりとした表情で切った。
ぶつりと通信を切った音が執務室に響く。それを隣で聞いていた膝丸は、珍しく怒の表情を見せた審神者へ瞬きを繰り返した。
「……珍しくバチバチした通話だったな」
「バチバチしたくもなるわ……! あの担当、まったく私の話を聞いてない! 事例が、事例が、って……! 事例がないからそう報告してるのに!」
もう! と審神者は拳を作っていたが、握り込められた手は丸く小さく、怒っているとわかっていてもなんだか可愛らしく見えてしまう。
というのも、いつもは柔らかな審神者の声がツンと尖り出したのが、刀剣男士の話を出された辺りからだ。自分が予想していた報告と違う報告をされて気に入らないのか、気に食わないのか、なかなか審神者の報告に対して「そうなんですね」と頷かない担当は話の矛先を刀剣男士へと変えたのだ。
依頼を出す前から、その担当の中で既に答えが決まっていたのだろう。あとは自分の答えにそって報告書が上がってくれば……と思っていたところに予想していなかった報告をされ、どうすれば望んだ報告書になるかと刀剣男士の話を出したのが悪かった。
膝丸の審神者は、大切なものを傷付けられた時、きちんと怒れる尊い心を持っていた。
「君、きみ」
膝丸は小さな蒸気をぽこぽこと噴き出すように頬を膨らませた審神者に、目尻が緩んでいくのを感じた。それから静かに目を伏せ、審神者の頭を自らの肩口に引き寄せる。審神者の頭部へと頬を擦り寄せれば、膝丸の心を擽る甘い香りがしてそっと吸い込んだ。
「君が怒ってくれて、俺は嬉しい」
「……膝丸は嬉しくても、私は怒ってるの……!」
「ああ。……でも、俺はそれがすごく嬉しいよ」
どこか語るように口にした言葉に、審神者はまだ怒りの収まらない顔で膝丸を見上げる。
不満そうにへの字を書いた唇に膝丸は目を細め、宥めるように唇を重ねた。

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