雨宿り

部屋を出る前から多少の心配はあったものの、やはり薄墨色の空からは弱い雨が降ってきた。
雨足の具合を見るために戸を開くと、濡れた土と洗われた葉の匂いが流れ込み、どこか甘ささえ感じられる湿った空気が狭い部屋に広がった。
「まだ止みそうにないわね」
本丸庭園の途中には、離れの茶室が設けられている。
大人四人が入ればいっぱいになってしまう小さな茶室ではあるが、定期的に茶会が開かれるおかげで手入れは行き届いている。
「濡れるぞ」
小さな窓から顔を覗かせ、雨の様子を窺っていた審神者の肩を男の手がそっと引き寄せた。
肩に触れた手に振り返ると、そこには審神者を外へと誘った膝丸が立っており、白い雨を滑らせたような白緑の髪をさらりと揺らしていた。
「やっぱり、雨降るよって言ったのに」
外に出る前、雨が降りそうだと言って審神者は膝丸を引き止めた。しかし膝丸は分厚い雲を一瞥し、なに、降る前に戻ってくればいい、と言って審神者の手を引いて庭の奥まで連れ出したのだ。
……まあ、ここ最近愚図ついた天気が続いたのもあり、なかなか外の空気を吸えていなかったので膝丸からの誘いは嬉しいものであった。外に出られないのなら室内でできることを、と執務に専念していたこともあったが、数日続くと正直飛び出したくなる。
ゆえに膝丸に誘われた時、雨が降りそうだから我慢しようという気持ちよりも、多少濡れてもいいから外に出たいという気持ちの方が勝ってしまったのだ。
で、その結果が茶室での雨宿りというわけなのだが……。
しかし雨宿りを必要とするほどの雨が降るなど、戦慣れした膝丸ならわかるはずなのに何故連れ出したのか。
雨に降られたことを責めるわけではなく、ただ純粋な疑問として審神者は膝丸を見上げた。
「気付かないのか」
すると、雨に濡れ、少し色濃くなった前髪の隙間から梔子色の目がこちらを覗いた。
肩を抱いた両手がするりと滑り、審神者の腹の前で留まって指を組む。そのまま引き寄せられて膝丸の胸へと背中を預けると、やや湿った髪が審神者の頬に落ちた。
端正過ぎるせいか、時折冷たい印象さえ与えがちの切れ長の目が、甘えるように細められた。
「君と二人で雨宿りがしたかったから、誘ったんだ」
しとしとと触れる髪はまるで振り始めの雨と似ていて、どこか擽ったかった。
「雨は、しばらく止まん。その間だけでも、俺に構え」
そう言って塞ぐようにされた口付けに、狭い部屋に満ちた雨の匂いが濃く甘く満ちる。
「雨が降っても君は机に齧りついたまま。連れ出して閉じ込めれば、俺に構ってくれるか」

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