甘やかす
猫ならばごろごろと喉が鳴っていただろう。
薬研が私の首筋に顔を埋めて抱き付いてくる。私と大差ない体格なのに「待って」と押し退けようとする手をぐいぐいと押し潰していく。
「や……薬研、」
「んーなんだ?」
すぅーと鼻息が聞こえて、薬研が私の耳の裏を嗅いでて「もうやめてやめてっ」って言ってるのに「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」って返されるのは何度目だろう。何度も何度も言っても止めない薬研にそろそろ言い飽きてしまい、最近ではされるがままになっている私。そしてそれがまた薬研の機嫌を良くさせてしまっている。いや別に悪くさせたいわけじゃないし、良くなるなら良くなってくれて構わないんだけど。
「あの、遠征帰り、だよね?」
「あぁ。」
「や、休まなくて平気?」
「いま休んでんだろ?」
「いや、そうじゃなくて……。」
私の腰を抱き寄せて、私の体が薬研の胡座の中に閉じ込められる。甘えたがりの猫のようにすりすりと私の頭に頬を寄せる薬研に、嬉しくないわけがない私はすっかり大人しくなってしまう。彼はつい先程遠征から戻ってきたというのに。……休んでほしい。ゆっくり体を休ませてほしい。と思っているのに薬研に体を擦り寄せられるという心地よさに私はその腕を払えずにいる。
「薬研には……内番も出陣も頑張ってもらってるから、休めるときに休んで欲しいの……。」
そう言うと、薬研の紫水晶の瞳が少しだけ丸く見開かれた。何かおかしなこと言っただろうかと見つめ返したら、紫の瞳がとろりと甘く細められた。
「俺は、大将とこうしてる時間が一番休んでるんだがな。」
「うそ。だって、こんなの……」
私が嬉しいだけで薬研が休まる要素なんて、ない。そう目を薬研から外すと、薬研の手が私の頬を包んでこちらを向かせる。
「大将は、俺にこうされるの、嫌か?」
「……嫌じゃないよ…。」
むしろ、好き。
薬研の腕が、手が、指が、私に触れると気持ちいい。薬研の声が、瞳が、体温が、すぐそこにあって。
「なら問題ねぇ。しばらくこうしてよう。」
薬研はそう言って嬉しそうに私を抱え直し、ちゅ、とこめかみに口付けた。そんな楽しそうな顔で見るの、本当によくないと思う。
「薬研は、私を甘やかしすぎだと思うんだ……。」
「そうか?俺っちとしては大将の方が俺を甘やかしすぎてると思うが。」
「えー……?」
「ほら、そういうとことか。」